家づくりラプソディー

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延床23坪の注文住宅を建てた経緯や暮らしの紹介。理屈っぽい話題多めです

住宅の耐震性能について (2) 耐震等級、品確法計算、許容応力度計算

耐震等級の計算方法について比較した記事です。

はじめに

木造一戸建て住宅を検討されている方は「耐震等級」を気にされる方も多いと思います。

この「耐震等級」、計算根拠が複数あるのですが、どれを採用するのかもまた、各社ポジショントークに余念がない部分(?)です。

どの計算方法(≒設計方法)が適しているのかは基本的には会社が決める事であり、施主はその会社を信用して建築を任せるとか、場合によっては自ら性能や計算方法を指定したりするという構図だと思います。

しかし、施主は大局観として「なぜ業界ではそういうことになっているのか」「どういう場合にその選択に至るのか」という背景事情を理解しておくのも、精神衛生上有益なことだと考えます。

前の記事での構造計算の話と同様、ある会社の結論は一つの正義として尊重されるにしても、必ずしも他が悪であるとは限らないことを念頭に置いておきたいものです。

 

自分なりに思索する折、Twitterやオフラインでの会話で、複数の実務者の方、中には有名な建築家の方からもコメントを頂きました。それを取っ掛かりとして自分で調査と勉強を進めました。この記事は、その成果を書きまとめたものです。

書き方は極力バランスに気を付けてみたつもりですが、特定の思想が湧き出ている可能性があると思います。本来であればお世話になった方々に感謝の意を表明し、ここで紹介すべきところですが、その方々の考え方が、この記事から匂ってくる思想と一致しているとは限らないと思います。この記事の主旨に与しているかのような見え方になってしまう可能性があり、逆に迷惑をおかけするかもしれないと思いましたので、ここでは紹介を控えさせていただきます。

「品確法・性能表示計算」 と 「許容応力度計算」

木造一戸建て住宅には、耐震性の指標として「耐震等級」というものが設定されています。

おおむね、建築基準法のボーダーラインで確保されている耐震性能を耐震等級1とし、

その1.25倍地震力(揺れの強さ)に耐えるのが耐震等級2

    1.5倍地震力(揺れの強さ)に耐えるのが耐震等級3

ということになっています。

ここで、何をもって「〇倍の強さに耐えられる」と判断しているのか?という疑問が生じると思うのですが、その判断方法は以下の2つの方法が有名です。(正確にはもう少しいろいろあります)

 

・品確法計算(性能表示計算)

壁の量、床の量、建物形状などに制限をつける方法。

特に水平構面(横揺れに対して壁の踏ん張りがちゃんと「効く」か)の検討が組み込まれており、吹き抜けやベランダ・オーバーハングも考慮されるのが、建築基準法と比べて特筆すべきところ。

・許容応力度計算

建物がある強さで揺れた際に、各部材にかかる負担(応力)を計算し、部材が耐えきれるかどうか判断する方法。

吹き抜けやベランダだけでなく、スキップフロア、3階建てなど品確法計算がサポートしていない構造にも対応可能。

また、局所的な負荷を詳しく評価できるため、「とても強いけどやたら細い壁」など特別な部材を組み込むことも可能。

 

どちらの方法でも、所定の条件を満たしていれば「耐震等級2とか3で設計された建物」という事になります。

(審査機関に申請して耐震等級の認定を得るかどうかは、ここでは別の話とします。これもまた会社によって色々と考え方がありますが、耐震等級が規定されている「住宅性能表示制度」は、性能基準と審査制度とがそれぞれ別々に意義付けされていることや、構造設計ソフトに認定制度があることを踏まえてみても良いと思います)

なお、「許容応力度計算」といっても、その手法のキモは各部材に発生する応力を計算すること。許容応力度は単なる「部材のスペック」なので、何か変な呼び方だなぁと思います。まるで計算して終わりみたいな呼び方ですが、設計結果を計算にかけているというよりも、計算に基づいて設計しているのです。

これらを踏まえて「許容応力度設計」というネーミングなら納得いくのですが…

腑に落ちませんが、私個人が腑に落ちるかどうかなんて知ったことではないと思いますので、ひとまず皆が使っている「許容応力度計算」に統一しときます。

 

…さて。

ただ壁を増やす(または強い壁を使う)だけではない耐震性能向上のポイントとして、前述した水平構面の検討が挙げられます。水平構面ひとつとっても、前述した2つの計算方法からは、耐震設計に関する思想の違いようなものが垣間見えます。

 

品確法計算の基準(概要):

必要な床の強度を、「耐力壁線」「床区画」という考え方で導出する。上下階で壁が揃っていない部分は、床が弱く評価される。

許容応力度計算(概要):

揺れによって各部に発生する応力を計算し、部材がその応力に耐えられる強度(許容応力度)があるかを確認する。

 

並べてみると、品確法計算は、「耐力壁線」「床区画」といった、物理量ではない仮想的な(建物として実在しない)幾何学的要素を定義することによって、構造計画をある程度制限しよう(無難におさめよう)という思想が伺えます。

一方、許容応力度計算「許容応力よければすべて良し」というもの。

仮想的な要素ではなく、各部に発生しうる「応力」という物理量を詳細に検討するリアルさが最大の特徴だと思います。局所的な力の集中まで検討しやすいこともあって、品確法の規定と比較すると、制限は緩和される(自由度が上がる)方向にあります。

結果として設計思想に対しての器が大きいパラダイムだと言え、

①「構造の欠点を見つけ出し、地震力をバランスよく受け止める素直な構造を実現する」か、はたまた

②「不自然な構造でも成立するようにレベルを上げて物理で殴る」か。

どちらを選択するか、設計者に任されている割合が比較的大きいのです。

(実際には単純二極化した議論ではなく、こういった判断を積み重ねていくのが構造設計の実務なんだろうと思います)

なぜ品確法計算をするか -  許容応力度計算と比べて

上記の通り、許容応力度計算のほうが、より実に即した精微な検討であることは事実でしょう。

しかし、許容応力度計算をはじめとする構造計算は(それだけで1つの職種として扱われているくらい)相応にリソースを要するため、ハウスメーカー工務店設計事務所が自前で実施する事は少なく、建物プランがある程度決まった段階で、構造設計を専門に行っている会社に外注されることが多いです。

…すると何が起こるかというと、設計や計算の出戻りは会社をまたいで発生することになりますので、コスト増大や納期遅延を避けるため、設計の方針としては上記の①(素直な構造)よりも②(レベルを上げて物理で殴る)を選択したがるバイアスが発生する傾向にあると考えられます(これは私の予想です)。

このため、許容応力度計算の結果を受けて構造計画に大きな見直しが入ることは少なく、結局梁をぶっとくするとか柱を立てまくる、壁を入れまくるといった力業で解決するソリューションに行き着いてしまう場合が少なくないようです。

一方、品確法計算による耐震設計は住宅設計ソフトの多くがサポートしており、設計担当者が随時、耐震性を確認しながらプランニングと構造計画を進めていくことができます。つまり、例えば間取りの計画について細かい検討をしながら、常に耐震性能の裏付けを取り続けることができるということです。

 

こういった事情を鑑みて、許容応力度計算のほうが高度かつ詳細な検証ができるということは認識した上で、

「きれいな構造を心掛けた上で品確法計算を標準としている。許容応力度計算は、変則的なプランの場合に行うことにしている」

という方針としている会社も多いようです。

前回の記事で書いた仕様規定と構造計算の捉え方を踏まえてみると、仕様規定の不十分さを品確法計算で解消しているという前提において、ある意味王道パターンのアプローチを取っているなという感じがします。

ついでに、初めから合理的に計画されたきれいな構造で、なおかつ安全マージンが大きめに取られているような仕様であれば、仮に許容応力度計算で耐震等級を確保したいという要求が出てきても、必要な修正は軽微な範囲で収まりやすいことが考えられます。

なぜ許容応力度計算をするか - 品確法計算と比べて

本来、前述したような制限を課すことによって「きれいな構造」をサポートしようとしているのが品確法計算ではあります。

しかし、「きれいな構造」と言われても、何がきれいで何がそうではないのか、一介の施主が判断することはさすがに困難です。私もこの機会に構造力学や建築構造設計の本を数冊さらって、部分的に応力計算を行ってみたりしましたがよくわかりません。例えば「柱の直下率」という概念をよく耳にすると思いますが、地震力(=水平力)への対抗性を、梁を介した上下の柱の位置のズレで評価しようとすることの技術的な裏付けがあまりよく理解できません。つまり、柱の直下率が高いプランは、確かにシンプルで直感的に望ましく思えますが、ここでいう(耐震性をサポートするための)「きれいな構造」なのかどうかは私にはわかりません。なお、どちらの計算方法にも、柱の直下率に関する規定はありません。

「同じ耐震等級でも、許容応力度計算のほうが強い部材の追加が必要になる」という話をよく見かけます。これは品確法計算だけでは評価しきれていない部分があり、見込める安全率の振れ幅が比較的大きいことを暗示しています。

 

例えば品確法計算では、建物の重さは、現実的な2階建てでは建物の重さ2種類でパターン化された係数に積雪量を加味しているだけです(外皮計算の係数と同じく、建築研究所あたりに根拠となる論文があるかもしれません)。

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出典:住宅:住宅の品質確保の促進等に関する法律 - 国土交通省 「評価基準」

ということは、その係数の根拠となったであろうモデルよりも軽い建物は、仮に計算結果が同じでも地震力(建物が地震によって揺さぶられる力)が小さくなるため、安全マージンが大きく取られていることになります。逆にモデルよりも重い建物は、同じ計算結果でも実質の安全マージンが少ないということになるでしょう。

品確法計算でより安全側に判断したい場合、必要壁量を自主的に割り増しして設定する以外にも、屋根・外壁・窓・断熱材といった建物の構成要素について重量が軽いものを選択していくことによって、実際に発生する地震力を減少させ、耐震性能に余裕をもたせられることが期待できます。また、規定上は壁量として算入してもよい「準耐力壁」をあえて除外して計算するというのも、品確法計算において実務者の間でよく採用される安全マージンの取り方らしいです。

 

一方、許容応力度計算では、建物の区画や部屋の重さを全て積み上げていきます。数値の根拠は法令に定められる代表値を用いてもいいですし、各部材の比重や体積を細かく調べて(業界用語ではこうした行為を「拾う」というみたい)詳細計算した値を使うこともできます。その重量をもとに地震力を求め、各部に発生する応力を計算します。このため、どの部位にどの程度のマージンを見込んで設計するかは、ひとえに設計者のコントロール次第ということになると思います。

経験と勘に頼って建てられた古い住宅が震災で倒壊しているというのですから、経験と勘みたいな要素はできるだけ排除したい、より正確に評価された建物に住みたいという思いは尤もです。

そんなわけで、構造がキレイか汚いかは別の問題として、結局「許容応力よければすべて良し(*本当にすべてではないですが)」という発想に乗っかっておいた方が、会社が施主に対して安全性を訴求しやすいし、住まい手としても安心だ、という考え方にも確かに説得力があると思います。

このため、品確法計算ではなく、常に許容応力度計算で耐震等級の判定をしている会社がいるのも間違いなく正義だと思いますし、許容応力度計算を社内で実施しているという会社もまた、上記で触れた分業体制の欠点を克服するような取り組みをされていてすばらしいと思います。

 

なお、品確法計算と許容応力度計算の壁量を比較してみると、等級1つ分かそれ以上違う、という話がよくネットで出てきていますが、いずれも同じ雑誌掲載記事からの引用に基づいていて、実際には必ずしも全てがそうだというわけでもなさそうです。ガルバ軒ゼロ総二階の私の家では壁量だけならどちらの計算法もほぼ同じでしたし、同様の傾向を報告している文献も見かけます。上述したマージンの取り方の違いかもしれません。

品確法計算でも、梁の寸法算定には許容応力度計算が行われている

「梁」は柱や床の重量を受け、下層の柱に伝える役割を担います。

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LIXILのサイトより引用

上層に重いものが乗るほど、それを受ける梁は丈夫なものを使わなければなりません。また、梁を渡す長さが伸びる(業界用語で『スパンを飛ばす』と言う)ほど、やはり梁を丈夫にする必要があります。

梁を丈夫にしたい場合、梁の断面積(高さ・幅)を大きくする手法が有効です。ただし柱と接続されている以上、梁の横幅は柱幅に合わせられる場合がほとんどだと思いますので、実質的には梁せい(梁の高さ)を大きくすることで対応するわけです。
…というわけで、設計のステップの1つとして、「荷重条件やスパン飛びの条件を踏まえて梁せいのサイズを選定する」という検討事項が存在します。

この梁せいサイズの選定にあたって、スパン表というものが使われることがあります。スパン表は「とある条件で梁に発生する応力を計算して、必要な梁せいを事前に導出しておいたリスト」のようなもので、梁を渡す長さ(スパン)と、梁と梁の間隔との組み合わせに対応して、望ましい梁せいを読み取ることができる表です。

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スパン表の例:愛知県産スギ・ヒノキの基準強度及び横架材スパン表

 

つまり本質的には、梁の寸法を決める際はそもそも許容応力度計算が行われており、仮にスパン表のみを使って設計されたのであれば、それは計算の結果を使いまわして設計したという事なので、実質は許容応力度計算に基づいて設計されていると考えてよいと思います。

た だ し 、 この「とある条件」というのが曲者で、標準のスパン表とされている日本住宅・木材技術センターのスパン表は、梁が渡っている部分の上に柱が立たないことを前提としています。また、柱と柱の間にかけられた梁を対象としており、梁と梁の間にかけられた梁(小梁)は条件として想定していません

もしこうした「スパン表に載っていない条件」が現れた場合、随時、その条件で応力を計算して梁せいを算出する必要があります。しかし、「スパン表を見てサイズを決めました」と書いて審査に出しても、そのスパン表が適用できる条件に合致しているかどうかの確認は審査でスルーされ、指摘されない場合が多いそうなのです。

基礎についても同様にスパン表が用意されていますが、標準のスパン表は人通口が考慮されていないので、人通口を設ける場合は応力計算に基づいて形状や仕様を決定する必要があります。(ちょっとこのあたりは実務上の運用セオリーが調べ切れてないので、機会をみて調べます)

 

実は品確法計算に対応した住宅設計ソフトの多くも、梁や基礎については許容応力度計算を行う機能を実装しています。変数の数が限定的なので手計算も可能です。

さらに、構造の標準化・規格化を推進している工務店などの場合は、自社の構造仕様で条件設定をして許容応力度計算を実施し、オリジナルのスパン表を作っていたりする場合もあるようです。ですので、一言で「スパン表を使って設計しています」といっても、スパン表のバリエーションを沢山確保した上で、適用できる条件を照合した上で適切に運用し、そうでない場合は許容応力度計算による検討を行っているのであれば問題ないと思われます。

(もしかしたら大手ハウスメーカーで良く耳にする間取り制限は、こうしたスパン表の適用条件にも関連しているのかもしれません)

 

 

参考文献

www.hyoukakyoukai.or.jp

www.mlit.go.jp

jutaku.homeskun.com

howtecs.shop-pro.jp

howtecs.shop-pro.jp

book.gakugei-pub.co.jp

www.ohmsha.co.jp

www.inoueshoin.co.jp