家づくりラプソディー

家づくりラプソディー

延床23坪の注文住宅を建てた経緯や暮らしの紹介。理屈っぽい話題多めです

狭小は悪か。戸建ては悪か。ゼロエミッションは正義か。

家をつくることと、省エネや環境問題への取り組みについて考えた記事です。

「広さあたり」で評価される性能

前の記事で熱収支の省エネ計算をしてみて気がついた事があります。

住宅の省エネ性能は、大きい家ほど有利です。

その理由は、多くの性能指標が「広さあたり」の性能で定義されているからです。

 

例えば「Q値」は、延床面積1㎡あたりの熱損失です。

ここでいう熱損失とは、家の中から外に逃げてしまう熱のことです(夏なら「熱」を「冷気」に読み替えて良いです)。

熱損失は、建物の外皮面積に伴って大きくなりますが、それを敢えて延床面積で割り戻しているのがQ値。この計算方法で大きな家が有利になる理由は次の通りです。

例えば、正方形の建物外形をもつ住宅の面積を2倍に引き延ばし、ワンフロア32畳から64畳にすると、建物の表面積は約1.4倍になります。

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熱損失が1.4倍、延床面積が2倍ですから、Q値は0.7倍

建物の図面をただ等倍拡大しただけで(そんなものが現実に建てられるかは置いといて)、単純計算ではQ値が30%も改善することになります。

 

他にもUa値」は、外皮1㎡あたりの熱損失です。

Q値よりは幾分フェアですが、こちらも家が大きくなるほど得をします。

外皮における熱損失の比重が大きいのは、土間、玄関ドア、窓といった、いわば壁以外の所。これらは、家の延床面積が広くなったとしても、それに比例して大きくなるわけではないので、外皮における占有率が次第に下がっていきます。

その結果、プラン上は、熱の逃げにくい優等生の部分(壁など)の割合が増えることになるので、Ua値が改善する傾向となります。

 

高性能住宅の世界的ブランドといえる「パッシブハウス」はさらに残念(?)で、以下のような規定があります。

・年間一次エネルギー消費量(家電も含む) 120kWh/㎡以下

これは、冷暖房だけではなく、給湯や家電のエネルギー消費量も制限される厳しい規定です。

しかし、家の面積が2倍になったからといってお風呂の湯量を2倍にする人は居ないと思いますし(笑)、キッチンのIHやコンロを3口から6口にする人も居ないと思います(笑)。したがって、家を広くすればするほど見かけ上の住宅燃費が良くなり、パッシブハウスの認定を取りやすくなるでしょう。
(2世帯住宅や集合住宅になると話は別ですが)

「小さく作る」は褒められない

私が家探しの中で新築一戸建てに活路を見出すことになったのは、伊礼智さんの作品を知ったからです。

a-schiebe.hatenablog.com

そもそも「夢のマイホーム♪」という趣に興味がなく、「一国一城の主!」という柄でもない自分にとって、こういうのこそ自分が住みたい家なのではないかと思ったものです。

小さな家は、土地や建築にかかるコストが減少するだけでなく、当然ながら住み始めてからのエネルギー消費量も少なく済みます

しかし、家を小さく建てたことによる省エネ効果が評価されることは殆どありません

この現状は不当なのでは?もっと評価されるべきでは?と思ったところから、自分なりの思索にふけってみました。

戸建ては根本的に贅沢品

「家を小さく建てて、エネルギー消費を抑えている」のは、社会の一員として立派なことじゃないか。

政府も何か助成金を組んで、推奨したらいいのでは?

…と思ったのですが、この思想は資本主義経済の原理に照らして歓迎されないと思います。

なぜなら、この理屈の行き着く先は、段ボールハウスが最高の省エネ住宅ということになってしまうからです。

 

有り体に言ってしまうと、そもそも「住宅を建てて暮らす」という事自体が、一般人にとって一生で最も贅沢な消費行動です。住宅の省エネ性能は、そんな贅沢を歓迎するという前提の上で繰り広げられている議論に過ぎないのです。

 経済を制御し誘導する立場にある行政からすれば、

「家を買えるくらいの経済的余裕がある人には、できるだけデカい家を建ててもらい、経済に貢献してもらいながら極力省エネをしてもらう」

という形態を進めることが好都合で、これをサポートするために省エネ基準や助成金などの制度が整備されていると理解するのが合理的です。

何とも拡大主義的な思想です。エコカーエコカーと言って省エネな車を売ろうとする一方で、究極のエコであるはずの「若者の車離れ」を認めるわけにはいかない自動車業界と同様のジレンマがあると思います。

だから国はZEHまで

ZEHとは、一定の省エネ性能を確保したうえで太陽光発電設備を搭載することにより、生活に必要なエネルギー消費を、発電による創成エネルギーでまかなえるようになった住宅を指します。

(夜間の電力消費は、昼間の発電余剰分で仮想的に相殺したと考えます)

www.enecho.meti.go.jp

政府はZEHの普及に力を入れており、ZEH基準に準拠する住宅には補助金が付与されます。

しかし、温熱設計に詳しい住宅設計者や建築会社は「ZEHでは性能的に不十分で、健康で快適な暮らしは手に入らない」と言います。

ここで、住宅の性能の目的が「省エネ」から「暮らしの快適性」に切り替わるわけですが、国はなぜそのような「不健康な住宅」を推奨しているのでしょうか?

 

…答えはやはり、戸建ては根本的に贅沢品だからだと思います。

 

もし国が、健康や快適性が高度に確保された住宅を、すべからく国民に提供する義務を有するというのなら、まずは東西南北上下左右が雨ざらし風さらしの一戸建て住宅を規制する必要があるでしょう。
段差ばっかりの2階建てなんてもっての外災害リスクの高い木造も禁止です。
政府は全国の工務店ハウスメーカーを潰して、マンションデベロッパーかURあたりにどんどん資金を投入する必要があるでしょうね。

 

幸い、そんな大胆な政策を進めようという流れは今のところ有いと思います。

 

既存市場を保護するため、ドンドン木造一戸建てを建ててもいい、という現状を維持する以上、国としては「省エネ」を理由に住宅の性能を規制する道理がありますが、健康や快適性を理由にそのような規制をするのは理屈が通らないわけです。

ゆえに、現行のエネルギー政策の立て付けとしては、

「一戸建てという贅沢品の存在」を歓迎する上で、極力地球環境に迷惑かけてくれるな

という形に落ち着くしかないのです。

政策としての目標がZEHの普及に留まっており、それ以上を目指そうとするモチベーションが低いのは、なるほど合理的だと思います。

高性能住宅は付加価値であり続ける

そんなわけで、エネルギー消費ゼロを達成すること以上の性能を一戸建て住宅に求めるのは、「ただでさえ金持ちの贅沢品なのに、さらに欲深いことに健康性や快適性すらも求めているということになります。全ての住宅がそんな性能を備えているべきとする理由は無く、当面はあくまで付加価値としての扱いに留まることでしょう。

ですので、「ものすごく高額な家を建てたのに暑い・寒い」という事例は今後も生じつづけるわけで、逆に「うちは他とは違って断熱気密にコストをかけたので快適で健康的だ」というプレミアムな満足度も、売り手側・買い手側の双方でアピールされ続けると思います。

快適な家を望む人は、「ZEHはあくまでも省エネが目的であって、快適性を担保するものではない」ということを認識した上で、快適性に目を向けて策定されている性能指標(例えばHEAT20など)も把握しておく必要があるのでしょう。

温熱設計に詳しい工務店さんは「HEAT20 G1とかG2くらいが全国の標準になって、施主には断熱の仕様なんかより他の事、間取りや設備などを考えることに時間を割けるようになってほしい」とおっしゃる方が多いですが、残念ながらそういった素地ができる見通しは暗いと言わざるを得ないと思います。

それでも戸建てを正当化する方法

住宅を作る会社は、最終的に木造一戸建ての存在意義が揺らぐようなアクションを取ると、自分の首を絞めることになりかねません。

「ZEHでは不健康だからもっと快適な住宅を」と行政に働きかけるのは迂闊でしょう。

 

ここで、興味深い主張を発信している方がいらっしゃいます。日本エネルギーパス協会の今泉さんです。

www.youtube.com

地球温暖化を克服するにはUA値0.26が必要、という理屈です。

今泉さんはウェルネストホームという高性能住宅メーカーの方でもあるので、言ってしまえばポジショントークではあるわけですが。

自分の家を建てたいだけの人に対して、世界規模での社会貢献を働きかけています。

一見スケールがでかすぎだろとも思うのですが、木造一戸建てが社会的に認められ続けていくための非常に整理された論理構築だと思います。

 

明言されているわけではないですが、今泉さんの論調は、「豊かな暮らしを求める人は、それ相応の社会的責任を果たすべき」という立場に基づいていると感じました。

木造一戸建てが贅沢品であることを否定せずに、贅沢ついでに温暖化対策に積極的にコミットする。金持ってる人はその責任がある。という考え方でしょうか。

 

…この考え方をもとに全体最適を図ると、どういう理屈が導き出されるでしょう。

(ここからは今泉さんについての話ではなく、私の思考実験ですので念の為)

私なりに考えたところ、こうなると思いました。

 

 

「高性能住宅で街を埋め尽くして、低性能住宅が建つのを阻もう。」

 

…驚くべき理屈です。

だから、広さあたりで住宅の性能が評価されることはウェルカムなのです。広い家を建てた方が、街における高性能住宅の面積が増えるからです。

それに引き換え狭小住宅は悪であり、小さい家でエネルギー消費を抑えたとしても、それは面積を減らしたから当然の現象であって、温暖化の解決に積極的に貢献していることにはならない、独りよがりな省エネなのです。

 

つまり、地球市民として求められているのは、こういうことです。

 

現金を持っていたり、高額なローンが組める人は、お金を沢山投入してデカい高性能住宅を建てよう!

 

ランニングコストで健康快適な住環境を手に入れつつ、地球環境と国際社会に貢献しよう!!

 

うーん、世の中よくできている。