家づくりラプソディー

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延床23坪の注文住宅を建てた経緯や暮らしの紹介。理屈っぽい話題多めです

ダイニングチェア探しの旅に出てました

ダイニングチェアを探し回った結果、グランプリチェアというデザイナー椅子に行きついた経緯について書いた記事です。

 

椅子を揃え始める

新居に引っ越してから、ダイニング周りでの生活スタイルを踏まえて、妻や子供が新しい椅子を家にお迎えしました。

nipponproud.jp

www.hamamotokougei.co.jp

そうした中、椅子に興味のなかった私も、せっかくなので「こだわって選んだダイニングチェア」を一脚持っておくのも良いかも…と考え始めました。

しかし!家探しと同様、私のめんどくさい性格↓

が椅子探しにおいても遺憾なく発揮され、かなり長い時間をかけて色々な椅子を検討することに…

椅子探しの過程を通じて、自分自身との対話がまたひとつ深められたような気がします。

というわけで、ダイニングチェア探しの検討記録をここに残しておこうと思います。

 

Yチェア以外で!

Yチェアというダイニングチェアをご存じの方も多いと思います。

ハンス・J・ウェグナーというデンマークの家具デザイナーが1950年に発表した椅子で、ウィッシュボーンチェア、CH24という呼び名もあります。外見の特徴として挙げられるのは

・線が細く、でも丸みがあって肌当たりの柔らかいフレーム

・背中に沿ってフィットする曲面の背もたれと、一体かつ連続したセミアーム

・紙を撚り合わせて編んだペーパーコードの座面

・背もたれの支持部材が「Y」の形

といったところでしょうか。

世界で最も売れている住宅椅子の一つと言われていますが、その4割近くは日本での販売が占めているそうです。住宅建築家として多くのフォロワーを生んだ宮脇檀さんが愛用し、事あるごとに言及した所からか?ベストセラーに。ポールヘニングセンがデザインしたペンダントライト・ルイスポールセンPH5

と並び、杉床で天井高抑え気味の自然素材活かしてそうなインテリア参考写真でよく見る北欧家具TOP1, 2といった感じの不動の地位を築いています。

座ればわかるその間違いのなさ。座りやすく、肌触りが良く、軽く、色々な姿勢に対応可能で、個性的ながらも押し出しがなく、日本の住宅にも溶け込むデザイン。

…うーん、完璧すぎる!これは使いたくない(笑)使ったら負けな気がする。

完全に天邪鬼が発現しました。

地元の独立系家具店の椅子を見て回る

そこで、まずは有名椅子を避けてマイナー椅子を探してみようという思考に切り替わり、本格的に調べ始めることに。

家を地元工務店で作ってもらった事ですし、椅子も地元家具屋さんのオリジナル商品が良いかもしれないなと思って、近場のお店を回ってみました。

幸い、全国的に知名度の高いオシャレショッピング街が近隣にあり、そうしたオリジナル家具のお店にもいくつか訪問できました。

地元デザイン・少数生産で、いわゆる「顔の見える仕事」というものでしょうか。作り手の想いやこだわりが、歪むことなくその場で伝わってくるリアリティがあります。また、素材選び・工法・デザインといった物づくりの構成要素も、一人歩きするような高尚さはなく、至って等身大で安心感があります。

そうした地に足の着いた雰囲気は、自分が「家」という形でこの土地に根を張った手前、相性が良く感じますし、近隣地域の循環型経済に貢献したい気持ちにもなってきます(笑)

…とはいいつつも、機能性やデザインの次元の高さでいうとYチェアに比肩し得るものはなかなか無く、そうした要素は過剰に求めないという、ある種の割り切りが必要と思いました。なおかつ、その割り切り方は今の自分には違和感があるかも…というぼんやりした意識が頭の中についてまわり、「欲しいな」という所まで気分が進むものは見つかりませんでした。

名作椅子の名作たるゆえん

ふと北欧系のヴィンテージ家具屋に立ち寄ると、Yチェア以外のヴィンテージデザイナーズチェア、いわゆる名作椅子も多く見つかります。

ちょうど同時期に、椅子の展覧会(座れる!)をしていたのでとても勉強になりました(笑)

どうやら家具を語る上では、加工技術の向上で様々なデザインが可能になり、かつ量産化・工業化に対するスタンス(インダストリアルデザイン)との交差点も模索されるようになった1950年前後の作品を「ミッドセンチュリー期」と呼んでいるようです。機能とデザインを兼ね備えた名作椅子も、このミッドセンチュリー期に多くが集中しているようです。

何十年も世界中の人に愛され続け、歴史に残り、語り継がれる(座り継がれる)ことになった椅子達。世界的なデザイナーの仕事ですから、その設計には常軌を逸した知恵やチャレンジが施され、思想が魂のように宿っているであろうことは想像に難しくありません。

そうしたものを一度この目で見て座ってしまうと、なぜ歴史に残るのか、その片鱗が垣間見えるような感じがして、なんというか沼にハマってしまいました(笑)

 

ハマって見積もりまで進んだのが、カイ・クリスチャンセンのNo. 42、通称Zチェアです。

www.comfort-mart.com

1956年に発表された椅子ですが、2008年に同氏監修のもと日本の宮崎椅子製作所により復刻され、ヴィンテージでなくても手に入るようになっています。

背当ての可動機構と座面の傾斜のバランスが絶妙で、異様に座りやすい。

かつ、この語る部分の少なさです。

線が少ない、構成要素の変曲点が少ない。それでいて、杖をついて人を受け入れるような包容力のあるデザイン。後脚の2本の間隔は地面に向かって少し狭まっているなど、立ち姿がとても美しいです。

パクリのような椅子もたびたび見かけますが、どこかを変更したとたんにバランスが総崩れしており、オリジナルのすばらしさが引き立つ結果になっていると思います。

板座が欲しかったのだ

しかし結局、Zチェアの購入は見送ることにしました。一番の理由は板座にこだわりたかったからです。

板座というのは座面が固い板で仕上げてある椅子のことで、クッションパッドにクロスや革などの張地をつけた張座とは対照的な存在。

子育て世帯にとって、手入れの楽さ(汚れへの強さ)も板座の長所の一つですが、それよりも自分の中を駆け巡っていたのは、以下のような機序の思考です…

・張座の椅子に座るというのは、とりもなおさずクッションパッドに座るということ。そもそもクッションパッドがある時点で、ある程度、座り心地は自動的に確保される。

・高価な椅子に座り心地を期待する場合、座り心地がクッションパッドによって実現されているものだと思うと煮え切らないかもしれない。クッションパッドにお金を払っているつもりはないからだ。

・裏を返せば、緻密な設計によって創り出された座り心地は、コストを性能に振って得ようとするものとして納得感があるような気がする。

 

…高級セダンのフカフカ革シートよりレカロのバケットシートに憧れる感覚と、似たようなものかもしれません…

 

妻が使っている長大作の小椅子(天童木工 T-3221WB-NT)が板座でありながら座りやすいという印象も手伝って、この方向性でお気に入りのものを探す事になりました。

印象的な板座のデザイナーズチェア

色々な椅子に座ってまわりましたが、その中でも印象に残ったものを書き残しておこうと思います。なお、ダイニングで楽器を構えて弾くことがあるので、アームレストは無し、もしくは小さめのものに限定しています。画像はいずれも公式サイトからの借用です。

アルヴァ・アアルトの66チェア(アルテック

あまりにデザインを転用されすぎて、見たことがない人はほぼいないであろう超有名なスツール、60スツール

に、背もたれが付いたような形の椅子です。

とはいえ座面は60スツールよりも少し拡大されており、若干後ろ下がりになるように角度もつけてあるため、よりダイニングチェアとして実用的になっていると言ってよいと思います。

取って付けたような背もたれのデザインが、やっつけ感がありながらも脳裏に焼き付く、謎の可愛げがあると思います。

背もたれは曲木で作られており、椅子の脚のみと接続されて上に突き出すような設計になっています。このため予想以上に大きめにしなって背中を受け止めてくれることから、意外に座り心地が良く、姿勢を変えてリラックスすることもできます。

また、分解状態で流通しており、箱詰めされたものが納品され、組み立ては購入者がネジで行うようになっていることから、若干(若干、ですが)手に入りやすい価格になっているのも好印象です。

座面は完全に平面なので、長時間座り続けると坐骨が少し痛くなってくるでしょうね。

ダイニングチェアはほぼ食事に使うのみでくつろがない、という用途であればコレにしていたと思います。自分が座りたい椅子というより、家に置きたい椅子としてはNo. 1ですね(笑)

ちなみに、別モデルの69チェア

は座面がさらに広く台形のような形状となり、一方で背もたれのしなりは少し控え目です。

しかし、これほど量産・流通に至るまで考慮され、機能とシンプルなデザインを兼ね備えた製品なので、本当はもっと工業化を進めて、IKEAのPOÄNG

みたいに1万円くらいで売られて世界中に行き渡るのが理想の姿なんじゃないかなぁ、とも思えたりしますが…

北欧デザイン、成型合板、自分で組み立て、といえばIKEAを連想しますものね。そのPOÄNGもまた、アアルトの401アームチェア


から着想を得ていることは明らかですし。まぁIKEAは総じてディティールが大味なので、アアルトのような絶妙なバランス感は再現されないのでしょうけれど…

 

イルマリ・タピオヴァーラのドムスチェア(アルテック

前述のZチェアとも共通するスタンダードなハーフアームチェアのシルエットがベースになっていますが、背板からちょこんと伸びるように付く丸みのあるアームや、背板と座板を接続している薄い板、露出したリベットなど、いろいろとポテポテついたキュートさを感じます。

座面は曲面で、かなり広めなこともあって座り方への許容力が大きい気がします。同じアルテック社製でもアアルトの最小限さとは対極に位置する感じで面白いですね。

水之江忠臣の図書館椅子(天童木工

角ばったフレームに板座と背もたれが付いただけに見える、寡黙な感じの椅子です。

しかしその角度や形状は緻密に考慮されているようで、座り疲れしづらい複雑な曲面形状に加工されているため、ある程度長時間の着座にも対応できそうです。

フレームの側部がすべて細く角ばっているのでやや尖った印象を受け、椅子を引くときや立ち上がる時など冷たく感じ、体になじむ柔らかさはないかな…

当初は図書館に大量導入され、その後、高度経済成長期の小さめの食卓向けに受け入れられてきたという経緯も踏まえると、狭いスペースに並べて使うためのコンパクトさを重視した結果、という事だと思います。

ちなみに、同じ天童木工製の柳宗理のスタッキングチェア

は、図書館椅子よりもカドを感じずやわらかい印象。こちらも結構期待していたのですが、どうやら背もたれの位置と形状が自分に合わないようで、背骨がかなり痛くなり絶望でした(笑)

アルネ・ヤコブセンのグランプリチェア(フリッツ・ハンセン

アルネ・ヤコブセンによるウッドレッグのチェア。最もベタな店舗向けスタッキングチェア?とも言えそうな「セブンチェア」と同じデザイナーが手掛けた椅子です。

まず、セブンチェアやイームズチェア(これもとても有名ですね)

に代表されるような、背もたれと座面が一体になった曲面形状のエルゴノミックチェアは、硬い座面ながら軒並み合格点を軽く超える座り心地を叩き出す印象があり、こりゃもう納得のデザインと言うほかありません。前述のレカロシートとも文法を共有しているのも前向きに評価したい要素なのですが、一点、困りどころなのがスチールレッグのものが多いこと。

スチールレッグは脚を細く作れることから軽やかさがあり、それ自体は良い事だと思います。しかしうちのリビングダイニングは、目線より上にはほぼ何もない低重心な内装なので、椅子一つだけが浮かんでるようなデザインだと、文字通り浮きそうなんですよね(笑)。なかなか素足生活の日本的住宅スタイルに馴染ませるのは少々難しそうに思えます。

そこでウッドレッグのラインナップがあるグランプリチェア。

1957年のデザインコンペで優勝したことからのネーミングのようですが、レッグ取り付け部の耐久性に関わる製造安定性の問題から生産が途絶えていたようです。その問題が解決され2014年ごろにラインナップに復帰したらしく、ヴィンテージを探し求める必要もなくなりました。

現在、フリッツ・ハンセン社から正規販売されているヤコブセンのダイニングチェアはセブンチェア・アントチェア・グランプリチェアの3種類(ドロップチェアを含めるかどうかは見解が分かれる?)。ウッドレッグがあるのはグランプリチェアのみです。

いずれも形状の違いから、背もたれのしなり具合も異なります。くびれの強いアントチェアが最も大きくしなり、控えめなセブンチェアは小さくしなる印象。くびれ部分が長いグランプリはその中間という感じでした。

ウッドレッグの断面形状が三角形のようになっているデザインもクールで、なおかつ木質の素材感も手伝って、「地に足の着いた印象」はセブンチェアやアントチェアとは一線を画していると思います。

あとセブンとアントはアクタスにでも行けば置いてありますし、割安なリプロダクト品も溢れていますが、グランプリはかなり拘っているお店でないと見かけませんし、リプロダクト品の流通もあまり見ない(特にウッドレッグは)という若干のマイナー加減も自分好み(笑)

ちょっとかっこよすぎというか、やってる感出しすぎか?とも思えますが、本質的にはパーツの少ないシンプルなデザインなので、内装とのバランスでうまく落とし込めると良さそうです。

 

グランプリチェアにしました

66チェアとグランプリチェア

で最後まで悩み、何度もお店に足を運んで座り比べましたが、最終的に座り心地の良さと実用性の高さで

グランプリチェア

画像

が私の椅子選びのグランプリとなりました。

今後のおうち時間、たっぷり座って愛でようと思います。

arnejacobsen.com

 

残念ながら次点となりました66チェアは、万が一椅子を買い足すことがあれば…って無いかな。

 

ちなみに…

グランプリチェアを注文しにフリッツハンセンのショールームに行った際、子供が一番気に入ったのはプフというクッション。もともとはモロッコ雑貨だそうですね。帰宅後、値段を調べて目を疑いました(笑)