夏の日除けとデザインとの兼ね合いを検討する中で、文献を探してデータを集めた記事です。
結論としては、庇やアウターシェードがない南の窓でも、真夏をやり過ごせると判断しました。
- 外部に日除けをつけたくないパターン
- パッシブデザイン的にはタブー!
- 「クリアガラス+外部遮蔽」 vs 「遮熱ガラス+内部遮蔽」
- 断熱性能と日射遮蔽性能は全く別物
- データ見つけた
- 庇を付ける場合はどうか
- 結論
- 補足
外部に日除けをつけたくないパターン
わが家の間取りは2階リビング。片流れ屋根の勾配天井を活かして、隣家の窓が迫る狭小地でありながら屋外への抜け感を最大限に得ようとするプランで、「これぞ注文住宅」という感じで思想自体は大変気に入っております。
(3Dマイホームデザイナー13で出力してみました。勾配天井や壁の面合わせなど各部で制限があって再現しきれてませんが)
しかし、ここで一つ懸念が。
南側にハイサイドライト(高窓)と腰窓を組み合わせた大きな開口部が計画されているのですが、夏の日射で大変なことになるんじゃないかと気になってきたのです。
私「庇とか、外付けシェードみたいなの着けない?それかハイサイドライトを細くするとか?」
妻「えー!かっこわるいー…」
まぁ、確かに理解できます。
ハイサイドライトに庇をつけると、視線の関係上、室内からは庇の裏ばっかり一生眺めて暮らすことになります。(裏に板を貼ったりしてかっこよくするというテクもあるのは解りますが)
外観的にも、他にバルコニーなどの出っ張りがない部分なので、庇やシャッターボックス、アウターシェード等の取り付け部が飛び出てくると、ことさら目立つんですよね。そして何より高窓だと、格納式の装置は出し入れが面倒くさいしメンテ性も悪い。
また、ハイサイドライトを細くするのも、庇を出すのと同じような効果があります。しかし、あくまでも視線の抜け感を重視したいという希望にはそぐわず。配置のバランス的にも細くないほうが整って見えるのは事実だと思います。
となると、この南の窓に対し、簡便に取り得る日射遮蔽の方策は次の2つ。
- ガラスを遮熱タイプにする
- 内付けロールスクリーン等の室内遮蔽器具をつける
これらのアプローチに、具体的にどのくらいの効果が見込めるのかが気になってきました。
パッシブデザイン的にはタブー!
最近、パッシブデザイン(太陽と共存する建築設計手法)に詳しい設計者が、YouTube等で解説を配信することが増えてきました。
我々建て主も、彼らのようなスペシャリストが発信する専門的な情報を容易に得ることができるようになったわけです。
特に有名なのは、パッシブハウスジャパンの理事をされている松尾設計室の松尾和成さんだと思います。私も動画を全てチェックしていますし著書も購入しました。
パッシブデザインの基本と言われているのは、次のような原則です。
「南の窓はできるだけ大きくして冬の日射取得を増やし、軒や庇などの遮蔽器具で夏の日射遮蔽を行うべし」
軒や庇は、季節による太陽高度の違いを利用して、冬の日当たりと夏の日除けを両立できる、きわめて合理的な先人の知恵と言えます。
(ただし、本当に暑さが厳しい8月~9月は太陽高度が少し下がってくるので、中途半端な検証で建てると大変なことになると思います。上記の松尾先生の動画でも説明があります)
一方、我が家で今やろうとしていることは、南の窓に日射を防ぐ遮熱ガラスを使い、遮蔽能力が低そうな室内遮蔽装置を付けるという組み合わせ。
ハッキリ言ってパッシブデザイン的な原則を破っているのです。
では、そのタブーを犯した設計によって、夏の暑さはどのくらい悪化するのだろうか?
というのが気になったので、勉強しながらデータを探してみました。
「クリアガラス+外部遮蔽」 vs 「遮熱ガラス+内部遮蔽」
理解の単純化のため、複層ガラスの窓を対象にして話を進めます。
室内の快適性を向上させる高断熱な窓には、Low-Eガラスと呼ばれるガラスが使用されています。
Low-Eの複層ガラスには、日射の遮蔽性で分けて以下の2種類が主に使われています。
- Low-E クリア:日射をたくさん取り込める断熱ガラス。LIXILでは「クリア」、YKK APでは「断熱タイプ」。
- Low-E 遮熱:日射を遮蔽する断熱ガラス。LIXILでは「遮熱グリーン」、YKK APでは「遮熱タイプ」。
冬場の日射取得に期待するのであれば、1のLow-Eクリアガラスを使用することが必要となるでしょう。
つまり先ほど挙げたパッシブデザインに則った設計というのは、クリアガラスの南窓に、庇やアウターシェードなどの外部遮蔽装置をつけるという事です。
そして、上記のタブーを犯す設計というのは、遮熱ガラスの南窓に、スクリーン等の内部遮蔽装置をつける場合に相当するでしょう。
これらの組み合わせパターンについて日射遮蔽の効果を明らかにしたデータがあれば、どのくらい夏の快適性が変わるのかを予測できるのではないか、という仮説を立てました。
断熱性能と日射遮蔽性能は全く別物
まず、各部材の材質的な熱的特性を調べようとしたのですが、さっそく行き詰まりました。
日差しによる室内温度の上昇は、外部からの熱の侵入ということになるので、熱貫流率(U値)や熱抵抗で示される断熱性能で評価できるんではないかと思っていました。しかしこれは正しくなかったようです。
例えば、庇やアウターシェードのような外部遮蔽装置は、日差しを受けて加熱しても屋外に熱が放出されるだけなので、基本的には「なんでもいいから直射日光を遮るのが大事」みたいな感じです。
一方で、カーテンやインナースクリーンといった内部遮蔽装置。日差しを遮るまではいいのですが、それによって発生した熱がそのまま室内に放射されてしまうとどうなるでしょう。熱量保存の法則で考えると、屋内で発生する熱の総量は、何も遮蔽していない時と同じになります。
ですので、空気が自由に出入りできるブラインドやすだれといった装置を室内に装着する場合は、日差しの明るさを防ぐことはできるものの、日射熱の発生を抑制する効果はあまり期待できないのです。
逆に、窓枠にぴっちり納めるロールカーテンやスクリーンは、窓との間に空気の層を作って、ちょっとした気密をとることができるので、日射で発生した熱をとどめておくことができます。
もちろん、その空気層を含めて考えると、結局のところ日射によって発生する熱の総量に変化はありません。しかし、室内の急激な温度上昇を抑えて冷房負荷を下げるとか、日没の時間帯までオーバーヒートせずに持ちこたえるという効果があり、熱の出入りにおける緩衝材の役割を任せることができると思われます(熱貫流率というより熱容量に期待する感じですかね)。
…とまぁつらつらと書きましたが、「日射によって室内にどのくらい熱が発生したか」というのは複合的な要素が絡んでおり、熱貫流率や光学的な(明るさとしての)遮蔽度から導出することは非常に困難です。
というわけで、この値は実測ベースで別途定義されたものが規格化されています。
日射熱取得率 η(イータ)
という値です。
例えばLIXILの樹脂サッシ・エルスターSのLow-E複層クリアガラスの日射熱取得率はη = 0.62。
これは、その窓から入ってきた日射による室内の発熱が、ガラスが入っていない状態を100%とすると、62%まで低減されるのだ、ということを意味します。
では、外部遮蔽物や内部遮蔽物を窓に取り付けた場合の、全体としての日射熱取得率が測定されたデータはないだろうか…と探してみることにしました。
データ見つけた
実は、省エネ基準の適合確認において日射熱の計算が必要なので、特定の遮蔽物と窓ガラスを組み合わせたデータが各社から公開されています。しかし、規定されている遮蔽物は…
- 和障子(か…紙ですか…)
- 外付けブラインド
のみ。
アウターシェードとか 内付けスクリーンのような今っぽい器具のデータはありません。
じゃあ省エネ仕様の適合計算なんて相当適当やんとも思いますが、それは今は置いといて、色々と読み漁っていると…
データがありました。
「第2章 日射熱取得率の測定」の「2.3.3 測定結果一覧」に掲載されています。
測定の方法やその妥当性も検証されていることから、数値としての信ぴょう性はそれなりに高いと考えます。
この文献には、数種類のガラスと、各種遮蔽装置とを組み合わせて使用した場合の、日射熱取得率ηの計測値が掲載されています。
計測対象となったガラスの中に、以下のようなサンプルがありました。
- Low-E (CVD型) ペアマルチEA 膜2面 η = 0.62
- Low-E (銀2層) ペアマルチレイボーグ グリーン 膜2面:η = 0.40
これ、LIXIL エルスターSのLow-Eガラスの公表値と同じです。
- Low-E クリア:η = 0.62
- Low-E 遮熱グリーン:η = 0.40
したがって、文献中の各ガラスサンプルをLIXIL エルスターSのガラスバリエーションに読み替えて比較することが可能です。
(YKK APのAPW330の断熱ニュートラルタイプ・遮熱タイプと対応させても問題ありません)
いよいよ比較です。
表から読み取ると、夏季の日射熱取得率ηは…
- Low-E クリア+外付けロールスクリーン η = 0.22
- Low-E 遮熱グリーン+内付けロールスクリーン η = 0.26
...あんまり変わらんな!!(笑)
しかも、外付けは吹きさらしにしておくと大変ですので毎日朝夕と出し入れする必要がありますが、内付けは真夏の間はレースカーテンの代わりとしてずっと下げておいても問題ありません。
外付けスクリーンを出し忘れる確率まで考慮すると、むしろ遮熱ガラス+内付けスクリーンのほうが実用上効果があるかもしれない…とまで思えてきます。
庇を付ける場合はどうか
省エネ計算用に、窓に庇を付けた場合の日射熱取得率ηの計算方法が規定されています。
「第3節 外皮の日射熱取得」の「6.2.2 取得日射量補正係数」を参照すると、
東京地域の冷房期の南の窓を対象とする数式が載っています。
この式に、高さ2000mmの窓の直上に600mmの庇を付けた場合の補正係数を出すと…
fc = 0.54
この係数をLow-E クリアガラスの日射熱取得率に掛けると、庇付きの窓の日射熱取得率ηが概算できます。
・Low-E クリアガラス+庇 η = 0.62 x 0.54 ≃ 0.33
では、ここまでにピックアップしたデータを、夏に暑い順番に並べてみます。
- Low-E クリア 0.62
- Low-E 遮熱グリーン 0.40
- Low-E クリアガラス+庇 0.33 (夏の平均値)
- Low-E 遮熱グリーン+内付けロールスクリーン 0.26
- Low-E クリア+外付けロールスクリーン 0.22
このデータから解ることは、冬の日射取得を優先するクリアガラスだと、そこそこの長さの軒や庇をつけても、遮熱ガラスに内付けスクリーンをつけるかつけないかくらいの日除け性能しか出ないということです。
つまり、遮熱ガラスという革新的な存在を踏まえると、軒や庇というのは、夏と冬を両立するというよりは、「夏の日除けと冬の日当たりのバランスを取る作業を、ほどほどに良い塩梅で勝手にやってくれるパッシブ装置」だと言う事が出来ます。
結論
Q. 南の窓に庇を着けないと、夏にとんでもなく暑くなるか?
A. Low-E遮熱ガラスを使えばわりかしそうでもない。
具体的には、室内側にロールスクリーンをつける程度の配慮をしておけば、冬の日射取得を意図した設計(Low-Eクリアガラスを使って、庇や外付けロールスクリーンで夏の日除けをする場合)とあまり変わらない。
一応、それなりに信ぴょう性のあるデータをもとに上記の結論が得られました。
内付けロールスクリーンをハニカムスクリーン等にグレードアップすれば、より強固な空気層が形成されるので、さらに日射遮蔽効果を稼ぐことができるでしょう。
というわけで、「南の窓に庇を着けない」という設計上の判断について、自分なりの納得を得て家づくりを先に進めることができましたとさ。
また、もう一歩進んだ考察をすると、次のような言い方も出来るかも。
Q. パッシブデザインは必須か?
A. 断熱・遮熱が適切にできていることが前提。
それをスタートラインにして、夏の遮熱を犠牲にして冬の日当たりを取るという駆け引きを行い、結果として通年で見たときのエネルギー消費量低減を稼ぎ出すという、想像以上に繊細な設計手法だと思った方が良いかもしれません。
その繊細さに建て主が付いていけないなら、多くのハウスメーカーや工務店がそうしているように、窓は全て遮熱タイプを標準としておくのが最初の落としどころでしょう。
補足
もちろん、省エネというのは細かいことの積み重ねであって、本来は数%でも決して無視すべきではありません。しかし、アウターシェードのように、省エネ性能を得るために住み手の協力を要するポジティブなパッシブデバイス(笑)を採用した挙句、もしそれを活用できなければたちまち不快になるというのであれば、逆にそこそこの設計で数%の無駄に留めているほうが精神的には過ごしやすいような気がします。
あとは、1年の冷暖房負荷をみると冷房費よりも暖房費のほうが格段に高いというデータがありますので、夏に多少暑くなったとしても、冬の日射取得を優先したほうが、エネルギー消費の削減上は効果があることになります。こうした観点に立脚すれば、やはりパッシブデザインのセオリーは合理性があり、本来は念頭に置くべき事項なのだろうと思います。
ただ、狭小地において、太陽高度の低い冬にまともな日射が取得できる窓っていったいどのくらいの面積なんだという話もあるので、立地条件を踏まえると、今回の選択にだってそれなりに説得力があるような気も少しします。それこそ厳密な計算はしていないですけどね。