鉄製の手すりを溶融亜鉛メッキしてリン酸処理で仕上げた話の記事です。
「家ブログアドベントカレンダー」に参加してみました。
玄関に手すりを追加することに
我が家のリビングは2階にあります。
2階リビングは「玄関からの遠さ」がデメリットとして挙げられることが多いと思います。そこで我が家は、玄関の上がり框(玄関とフロアとの段差)からリビングまで仕切りなくつながる直線階段によって、玄関ドアを開けた瞬間からリビングの雰囲気を予感させ、少しでもネガティブな要素をやわらげようという計画になっています。
しかし、いざ木工事が始まってみると問題が浮上。(着工前に問題は浮上させとけよという話ではありますが)
見ての通り、もともと段差が大きいところに、さらに階段1段分の高さがつくことによって、合計60cmの段差ができるのです。土間で自転車整備をしたりするために、敷台(玄関の踏み台のこと)を一部欠いてもらったためにこの高さが生じてしまいました。
そもそも何かと立体的な空間の使いこなしが多い狭小住宅。
安全性に振り切るよりも多少「攻めた」プランになるのは致し方ないのですが、階段から落ちて土間コンに60cmダイブというのはさすがに危ない。
…というわけで、この部分に何か掴まることのできる部分を作ろうということになり、提案されたのが
・木のルーバー
・アイアン手すり
という2パターンの方策です。
木のルーバーは大工さんの造作。アイアン手すりは鉄工場で作ってもらったものをペンキで塗って仕上げるという提案で、費用はほぼ同じ。どちらも捨てがたい。
溶融亜鉛メッキとな?
外から帰ってきたばかりの手で触る場所なので、傷・汚れ・剥がれに強い仕上げが望ましいです。どちらも悩むな~と言っていたところで、いきなり妻がよくわからないことを言い出しました。
「溶融亜鉛メッキのリン酸処理ってどう?」
よ、よ・・・?リン酸・・・?なんぞ?
あー、こういうのか。ビルの駐車場のダクトとかで使われる模様のやつですね。
塗装のように剥がれないので錆びづらく、対候性に優れるのが特徴であるほか、スパングルと呼ばれる独特な結晶模様が形成されることから、意匠性も認められます。
リン酸処理(リン酸塩皮膜処理)でGoogle画像検索
メッキ処理後にリン酸で表面処理することによって、亜鉛めっきのギラギラ感が落ち着いて、建物のデザインにも溶け込みやすい風合いになるそうです。
妻の提案は、アイアン手すりを塗装するのではなく、この溶融亜鉛メッキとリン酸処理で仕上げるのはどうか、という事です。
ビル屋で仕事をしているだけあって、引き出しがちょっとマニアック。
しかしもうなんかこれしかない、これが解だ、みたいなモードに入っていらっしゃるので、対応してもらえるかどうかを工務店に聞いてみました。
「輸送」という施主支給
工「調べました。溶融亜鉛メッキもリン酸処理もできます」
私「本当ですか!いくらくらいかかりますか…?」
工「溶融亜鉛メッキは、ほかの建材と同時に処理するので追加費用は不要です」
私「おお!」
工「リン酸処理は、ペンキ塗り仕上げから5万円アップです」
私「う、うぉ…」
工「…ただ、工場間の輸送をご自分でやっていただければ追加費用はありません」
私「マジかw」
どうやら、工務店が鉄製の製作品を委託している鉄工場にはリン酸処理設備が無いらしく、鉄工場からリン酸処理工場まで品物を輸送しなければならないそうです。
当日になって分かったのですが、その工場は本当に純粋な工場。配送や受取などのロジスティックスを手掛けてくれる部門もなければ、処理が終わった品物を保管してくれる場所もないので、その場で処理して持って帰って現場まで運びこむ必要があります。ということは、輸送だけで一人工(一人が丸一日作業すること)使ってしまいますね。確かに工務店からみると数万円のアップチャージとなって出てくるのも理解できます。
有給を取って施主自ら工場間輸送
というわけで、うだるような真夏のとある平日。有給休暇を取って、マイカーによる東京→埼玉→千葉→東京の単身ミニツアーを実施することとなりました。
まずは埼玉県・東松山市の鉄工場に到着。言づては済んでいたらしく、手続きをしてすぐに受け取りできました。
なるほどギラギラしておる。(工場の写真掲載は控えておきます)
車に乗せて千葉へGO。ここまでは至極スムーズでした。
で、ここからが本日のハイライト、リン酸処理工場です…
リン酸処理工場で面食らう
千葉県・八千代市のリン酸処理工場へ到着。
しかし、受付らしい受付がありません。そもそも来客という概念があるのかすら疑わしいというか、人間を客として受け入れるように造られた施設ではなさそうだ。
ひとまず守衛室を見つけたので守衛さんに尋ねてみると…
「リン酸処理なら、ここから左の道を進んで5つ目の棟を右に曲がるとわかります」
わ、わかるんか…?
「とりあえずここにお名前と会社名を書いていただいて…」
会社名?私、個人ですけど。いや工務店のお使いか?ん、鉄工所からの輸送だから鉄工所からのお使いか?
と混乱してると、いかにもめんどくさそうな顔をされました。
さて、大型トラックが行きかう道路を、乗用車でチョコチョコ動き回る羽目になりアウェー感満点です。
さて、
『リン酸処理課 受付⇒』
というプラ板看板を見つけたので歩いていくと、そこにあったのはパチンコの換金所みたいなブース。とりあえず伝票を渡して受付を済ませました。
「順番に処理してるんで、この棟の端のところで並んでください。はい次の方」
と雑に回されたのはいいのですが、どう並んで何を待てばいいのか全く分からないので、とりあえず手すりを持ってトボトボ歩いていきました…
指示された場所に近づくと…
お、なんかいかにも処理されてそうな場所だ。従業員の皆さん作業中だし、誰に声をかければいいのやら…とキョドっていると、
「ちょっと!ヘルメットかぶらずに入っちゃだめですよ!」
とどこからともなく怒鳴られる。スンマセン!
…そりゃ工場ですから当然といえば当然だ。しかし今更どうすればいいのやら…
ヘルメットがないことにはどうしようもないので大目に見てくれたらしく(?)、
「そこに並んでください。順番に上げますので」
とガイドしていただく。あ、はい。
…ものすごい場違い感ですねはい。
前後は非常階段、ダクト、壁などスケールの違う処理品を積載した大型トラック。
その間に棒一本持って突っ立ってる男一人。ネタ性がありすぎる。
列が進んで、ピックアップスペースのようなところまで辿り着きました。
「今から処理しますんで、棟を出たところで終わるまで待っててください」
あ、じゃぁ待たせていただきます。
…って、何分待つの?何十分?何時間?ちょっとトイレ行くのもNG?
全く時間の感覚と段取りがわからず、猛暑の中とりあえず待ちます。
どのくらい待てばいいのかわからないのに、とにかく待たなくてはならないというのは、今すぐにでも動ける状態を維持し続けなくてはならず、残り時間も提示されないので非常に消耗します。自衛隊の訓練か何かか。レンジャー!
とかなんとか悶々とすること30分。手すりを持ったオッチャンが近寄ってきます。意外と早かった。
「できたよ」
お、おう…
じゃなかった、ありがとうございます!素晴らしい!
さっそく車に積んで帰って、現場に搬入。朝8時ごろに行動を開始しましたが、終わったころには18時を過ぎていました。
完成
後日、大工さんに取り付けてもらいました。
一般的には屋外で使われる仕上げだそうですが、玄関土間ということで、外と中の中間部分にふさわしい、落ち着いた雰囲気のある出来栄えとなりました。発案者である妻も大満足でウットリだそうです(そこまでか?)。
期せずして妙な思い出作りをしてしまった、家づくりのエピソードでしたとさ。
最後に、3Dマイホームデザイナーのパースと実物写真を並べておきます。