住宅の断熱性能を直感的に示そうとした記事です。
色々複雑なことを言ってますが、読むのが面倒でしたら大きい文字のところだけ読めば要所が判ると思います。
- 突然のUa値
- 熱損失を求めよう
- 「3800ワット冷える」って、何?
- 日射のエネルギーと比較
- タマホームにソーラーパネルをつけると
- 太陽電池は大正義なのか…
- 補足1:一条は、抜かりなし。
- 補足2:各部の熱損失も計算可能
突然のUa値
住宅の断熱性能を示す値として、「Ua値」や「Q値」という数値が使われています。
世間一般では、高性能住宅に興味のある人くらいにしか縁のないワードだったようですが、このところ急速に認知が広まり、パソコンの動作周波数「〇GHz」ばりに家のスペックを表す指標として広まってきました。
特に界隈に衝撃が走った(?)のは、タマホームのCM。
サンドイッチマンが視聴者目線で語った上でネタに取り込んでくれてるので、置き去り感が最小限に抑えられており、良く出来たCMだと思います。
このCMの中で、タマホームは「Ua値 0.55 W/(㎡K)」 とアピールしています。
Ua値というのは、建物の壁、窓、天井といった外皮部分の熱の伝えにくさの平均値。壁や窓などの選び方に応じて値が変わっていくので、各部の仕様による断熱性能の違いを横並びで比較するのには向いています。
しかし、具体的にどのくらい断熱性があるのか…たとえば冬にどのくらい保温性能があるのかを直接表しているわけではないので、クルマでいうところの
200馬力 = お馬さん200頭分ぐらいの力
- 換気の影響は考慮しないする
- 部屋ごとの温度差は考慮しない
熱損失を求めよう
実生活に即した肌感覚に置き換えて考えるには、 まずは
「建物全体から、どのくらいの熱が逃げるか?」
という指標、すなわち熱損失で話をするとわかりやすいです。
建物の熱損失を計算する方法は、国交省のガイドラインによって細かく規定されています。
…が、Ua値との相関関係を統計的に調べたデータがあるようで、おおまかに換算することができます。いくつかの会社や個人の方が換算式を提示されていますが、我が家の仕様で最も詳細計算値に近い値が出たのは、さとるパパの住宅論さんの式です。
いわく、
Q=2.67 * UA + 0.39
まずは、この数式でタマホームのUa値をQ値に換算してみましょう。
Q = 2.67 * 0.55 + 0.39 ≃ 1.9
このQ値というのは、「室内外の温度差が1℃の時の建物全体の熱損失量を、実質延床面積で割ったもの」です。
…この一文にさえ色々な単語が登場しますが、前提条件をこちらから決めてやると具体化できます。
まず、Q値に実質延床面積を掛けもどすことで次元が一つ減り、「室内外の温度差が1℃の時の建物全体の熱損失量」がわかります。
ここでは、実質延床面積が100㎡のお家を想定してみましょう。
(実質延床面積とは、ロフトや床下を室内空間として利用する場合に延床面積に計上させた値です)
1.9*100 = 190 [W/K]
室内外の温度差が1℃のとき、建物全体としては190Wの熱が移動するということです。
これに具体的な内外温度差を掛けてやることで、さらに次元が一つ減り、その温度条件下での「建物全体での熱損失量」が解ります。
たとえば、ちょっと冷え込む南関東の夜として、
室内20℃、室外0℃
という条件を想定しましょう。
室内外の気温差は20℃ということになりますので、建物全体の熱損失は…
190 * 20 = 3800 [W]
3800ワット。
つまりこういうことです。
「タマホームの100平米の家は、真冬に3800ワット冷える」
「3800ワット冷える」って、何?
パナソニックのエアコンの仕様表を見てみましょう。
はい、だいたい14畳用エアコンを定格能力で冷房運転している時ぐらいです。(4.0kW = 4000W)
ツッコミどころは色々あるんで許して頂きたいですが、言い換えると、
「タマホームの100平米の家は、14畳用エアコンを8割パワーで冷房運転してるぐらいの寒さ」
ということになります。
家の中を暖かく保つには、この「自然冷房」を抑え込む必要があります。そのためには、同じ3800Wの暖房ができる12畳用エアコンで相殺してやればよいのです。
外気の影響で家が冷えること(熱損失)をマイナス、エアコンで家が暖まること(熱取得)をプラスとして、熱の収支を表現すると
-3800 + 3800 = 0 [W]
という形ですね。つまり机上の計算としては、
「タマホームの100平米の家は、12畳用エアコン1台があれば、外が0℃のときでも家じゅうを20℃に維持できる」
ということになるわけです。
(「北の部屋が寒い」「窓際が寒い」とか「玄関・風呂が寒い」といった局所的な温度差については、個別の手当てが必要なのでくれぐれもご注意ください)
日射のエネルギーと比較
では、日射を取り込むことによる暖房効果である「日射熱取得」の量と比べてみましょう。
太陽光から得られるエネルギーは、東京の冬の日射強度であれば、正午に南の窓1㎡あたり600W程度がピークになるようです。*1
1600mm*2000mmみたいな普通の掃き出し窓
のガラス面積は大体3㎡くらいなので、窓が受ける日射量は
600 * 3 = 1800 [W]
ただし、この1800Wが全て家の中に入るわけではありません。例えば夏の日差しを遮ることができる窓ガラス(遮熱Low-Eペアガラス)は、日射エネルギーを4割程度通過させて室内に取り込む能力があります。
1800 * 0.4 = 360 [W]
つまりこの窓
は、昼間の晴天時なら720Wの暖房として機能します。
パネルヒーターを750Wモードで動かすのとほぼ同じ暖房効果が、無料で得られるということです。
(パネルヒーターは、消費電力をほぼそのまま熱に変換して放出します)
ちなみに、夏の日差しをあまり遮らない窓ガラス(クリアLow-Eペアガラス)ですと掛け率が4割から6割に増加するので、パネルヒーターの1000Wモードとほぼ同等になりますね。
熱の収支を計算してみましょう。
まず熱損失です。
昼間でよく晴れており、外気温が12℃くらいになったとします。すると内外温度差は8℃。
この状況ではタマホーム100㎡の家は
190 * 8 = 1520 [W]
の自動冷房が働いていることになります。先ほど試算した夜間の3800W冷房よりはずいぶんマシですかね。
一方、さきほどの「720W暖房窓」を1Fと2Fの南面にそれぞれ配置して日射を取り込むことができれば、
720*2 = 1440 [W]
で1440Wの日射熱取得が見込まれます。すると熱収支は
-1520 + 1440 = -80 [W]
ということになり、まぁほぼ相殺できました。
「家全体の熱損失を、2つの掃き出し窓による日射取得で補うことができた」
ということです。
他の小窓からの日射取得もあるでしょうから、総合して言うと
「タマホームの延床100㎡の家は、気温が12度くらいまで上がる日なら、昼間はカーテンを全開にすれば暖房がいらない」
という省エネ運用ができるかもしれないことを数値的に説明しています。
タマホームにソーラーパネルをつけると
太陽電池は、日射のエネルギーを熱ではなく電気に変換する発電装置。
発電された電気でエアコンを動かした場合だって、「日射エネルギーを利用した暖房」といって差し支えないでしょう。私はそう思います。
では、太陽光発電でエアコンを動かす場合、窓からの日射熱取得と比べて、どの程度のパフォーマンスを発揮できるのでしょうか。
例えば、もし前述の「720W暖房窓」と同じ3㎡の面積で、太陽光発電を行うとどうなるか計算してみます。
3㎡の面で受けられる日射エネルギーは1800Wでしたよね。
ソーラーパネルの発電効率は、現在の製品だと25%くらいです。
1800 * 0.25 = 450 [W]
発電量は450Wになりました。*2
で、エアコンは、ヒートポンプという部品によって、消費電力の何倍もの熱エネルギーを得ることができる魔法のような装置です。(家の周辺の空気から熱を奪っているので別に魔法ではないんですが)
その倍率はCOPという数値で表されます。機種や条件にもよりますが、よく効く状況下なら
COP=5
くらいの値になります。
発電した450Wの電力を使ってCOP=5のエアコンで暖房をした場合、
450 * 5 = 2250 [W]
の熱取得が見込まれます。
そう、仮に掃き出し窓1つ分
の窓面積をそのまま太陽電池に置き換えた場合(笑)、エアコンで2250Wの暖房ができるくらいの発電が可能です。タマホーム100㎡の昼の熱損失1520Wなんて余裕でカバーです。ソーラーパネルは1kW、2kWといった単位で話題に挙がることが多いですが、たった450Wの発電でこの余裕度です。
太陽電池は大正義なのか…
話題がもはやタマホームから離れますが、「太陽光発電+エアコン」
という構成は、同じ面積の窓「720W暖房窓」
と比べて約4倍もの暖房能力があるということになりました。
仮に、夏の日差しがキツくなるのを承知で(庇を伸ばす、すだれをかける等で対策して)日射取得タイプの窓ガラスを選択したとしても、日射熱の取得率は50%程度上がるだけなので、いずれにしても比較になりません。
窓ガラスの日射熱取得性能は夏の日差し遮蔽とのトレードオフである(最初から限界が見えている)のに対し、太陽光発電の効率やエアコンの効率はまだまだ上がる余地が残されていますから、この先どんどん差がついていく気がします。
もちろん、実際のコスパを論じ始めると、電力価格や設備費用なんかを含めて詳細に検討する必要がありますが、純粋に熱収支の面では、チマチマとパッシブデザインを努力するより、太陽電池でゴリゴリ発電してエアコン電力を自給するほうが明らかに効率がいいんですねぇ…
とまぁ、なんだか少し寂しい結果となってしまいました。
ちなみに「720W暖房窓」と連呼しましたが、1馬力が735Wなので、
掃き出し窓から入ってくる日射には、お馬さん約1頭ぶんのパワーが秘められている
ということを書き添えて筆を置くことにします(錯乱)
補足1:一条は、抜かりなし。
「家は、性能。」とかって売っている一条工務店は、日射取得の少ない遮熱トリプルガラスという窓が標準になっており、窓からの日射熱取得はほぼ無視しています。その一方、屋根にソーラーパネルをモリモリ搭載することを推奨しています。これは上記のとおり、窓と太陽光発電の効率差を考慮すると妥当に感じます。
しかもトリプルガラスであれば件のUa値・Q値も小さくなり、建物の熱損失が少なく抑えられるので、小さい暖房で室内温度を保つことができます。すると夜間の暖房費も昼間の発電余剰分で貯金しておくことができるでしょう。
加えて言うと、夏季になると窓からの日射は一転して忌み嫌うべき存在となる一方、太陽光発電なら日射エネルギーが冷房の電力源になりますから、その省エネ効果の差は議論するまでもありません。
全く情緒がなくて寂しい限りですが、計算上は最適解だと言うほかないと思います。
補足2:各部の熱損失も計算可能
同じような計算で、建物全体からではなく部位ごとの熱損失を知ることも可能です。
たとえば、賃貸住宅によくあるアルミサッシ単板ガラスの熱貫流率は6 W/㎡Kです。3㎡のガラスで、内外気温差が20℃であれば
6 * 3 * 20 = 360W
なんとたった一つの掃き出し窓から、一晩中360Wの熱が逃げ続けます。
750Wのパネルヒーターをつけても、部屋が取得できる熱はこの窓のせいで差し引き390Wまで低下します。そう考えると単板ガラスはいまどき有り得ないですね。
断熱カーテンなんかもありますが、上下左右が密閉されていないと窓が開いた状態と同じで空気が流れてきてしまうので、かなり上手につけなければ大した効果がありません。
アルミサッシ単板ガラスの熱貫流率6は、一般ペアガラスにすると3割減、ガラス間にアルゴンガスが入った樹脂サッシや複合サッシであれば7割~8割減ほどになりますので、その効果の大きさは相当なものでしょう。