家づくりラプソディー

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延床23坪の注文住宅を建てた経緯や暮らしの紹介。理屈っぽい話題多めです

「引き違い窓」の気密性能を調査

引き違い窓の隙間の大きさを、規格書や論文などの各種文献を利用して算出した記事です。

結論としては、メーカーが小出しにしている情報から推測すると、小さめの掃き出し窓1組につき、2cm x 2cmの隙間面積に相当する漏気があるようです。

引き違い窓と気密性能

現代日本住宅の「ザ・スタンダード」ともいえる、2枚のスライド窓を並べて配置した「引き違い窓」。

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先日の高性能引き戸に関する記事で触れましたが、引き違いは構造的に隙間が多いという欠点があり、冷暖房や換気計画への悪影響を避けるために多用しないという設計者が増えているようです。

a-schiebe.hatenablog.com

 

サッシメーカーのカタログを見ても、アルミサッシやアルミ樹脂複合サッシでは引き違い窓がラインナップの先頭に鎮座していますが、高性能な樹脂サッシではあえなく端っこに追いやられています。

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YKKの複合サッシ「エピソード」のカタログ。引き違い窓がトップに陣取る

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YKKの樹脂サッシ「APW 330」のカタログ。引き違い窓は端っこに

こうしたカタログの表示の違いからみても、「これからの窓はどうあるべきか」という、メーカーの思想のようなものを感じるのは私だけではないはずです。

私自身も家づくりを検討し始めてから上記のような窓事情を知ったのですが、一介の建て主にも情報が伝わってきたのはここ数年の話だと思われます。例えば「マイホームデザイナー」等の間取り検討ソフトでは、依然として引き違い窓が普通の窓として扱われているのに対し、すべり出し窓はあくまでデザイン窓・特殊窓としてカテゴライズされていますからね。

 

では、最近の引き違い窓の気密性能は、定量的にどのくらいなのでしょう。そんなに気にするほど悪い物なのでしょうか?

JIS気密等級

「この窓にはこのくらいの隙間がありますよ」という具体的なデータを示してくれているメーカーはなかなか見当たりません。しかし、日本で販売されているサッシは、JIS  A 4706という規格で気密等級の表示が定められています。

ソースはこちらで検索して入手して下さい。

JISC 日本産業標準調査会

で、実は、どのメーカーのどのグレードを見ても、引き違い窓は下記のように「A-4」という気密等級が付与されています。

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APW 330のカタログより、引違い窓の仕様表示部分の抜粋

では、このA-4等級というのがいかほどのランクなのか、規格の解説を見てみましょう。

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JIS A 4706の気密等級線図

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JIS A 4706より気密等級の目安

なんと、A-4等級は規格上は最も気密性能の高い最高ランクで、もはや一般用ではなく特殊建築用のサッシだということになっています。

最高ランクのカンスト勢の中で、窓のタイプによる気密性の差を争っているわけですね!

すばらしい!

さすが日本の技術力は並外れている!

 

……ほんまか?

 

これについては以下のように予想しました。

居住空間に24時間換気などのシックハウス対策が盛り込まれたのは、2003年の改正建築基準法

一方、この気密等級が規定されたJIS A 4706の最後の改正は2000年です。

ということは、この気密等級は換気を考慮した建築基準法すら前提としておらず、なんとも低レベルな争いである可能性が高いでしょう。

 

窓の気密性能を向上させてきた各メーカーの取り組みは敬意をもって評価すべきです。しかし、今から買う人の立場からすれば、気密等級自体はもはや死んだランキングで、残念ながら何の参考にもならないというのが事実です。

 

ここで、YKK APが高性能引き戸としてラインナップしている「大開口スライディング」のニュースリリースの中から、引き違い窓の気密性をどう評価すべきかという推測の参考になる言及を見つけました。

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YKK AP 「大開口スライディング」のニュースリリース

JIS基準 10Pa時の通気量 2.0㎥/(㎡h)というのは、先ほどの等級線図でいうとココです。

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YKK APがいう従来の引違い窓の気密性能

ちょうどA-4等級線のボーダーラインです。

YKK APの普通の引き違い窓が、具体的にどのくらい漏気するのかは分かりません。

しかし、「従来の引違い」としてA-4等級のボーダーラインの値を持ってきているという事は、少なくともYKK APでは、引き違い窓を、A-4等級のボーダーラインを充足できる程度のバランス感覚で設計しているのだろう、と考えることができます。

通気量(漏気量)を具体的に計算

上の節で述べたように、引き違い窓の気密性能は、A-4気密等級を達成できる程度だと仮定して話を進めます。

A-4気密等級線は、10Paの内外気圧差において、窓表面1㎡につき、1時間で2㎥の漏気量があることを示します。
これはだいたい、横幅1690mm×高さ2030mmの掃き出し窓で換算すると…

風速4m/s(旗が開く程度)の風が窓に吹きつけたとき、1秒あたり1.9ℓの外気が(花粉や砂埃も一緒に)入ってくる計算です。

…こう聞くと引き違い窓をやめたい気がしてきますよね(笑)

YKK APのデータによれば、大開口スライディングを使えば、これを0.4ℓまで低減できるということになります。

標準的なすべり出し窓やテラスドアでも、機構的な素性から参酌すれば、これらの中間くらいの性能は少なくとも出ると思われます。すべり出し窓のインナー網戸に抵抗があるならば、大開口スライディングと同じくらいの気密性能が出ると思われるドレーキップ窓(ツーアクション窓)という選択肢もありますね。(ドレーキップの掃き出し窓を作っているのは、日本の大手メーカではエクセルシャノンだけですが)

a-schiebe.hatenablog.com

相当隙間面積に換算

住宅業界では、気密性を表現するときに相当隙間面積(C値)という値を用いることが多いです。

C値の定義は「住宅全体の隙間の面積を延床面積で割ったもの」で、JIS A 2201で測定および算出方法が規定されています。

C値での性能評価は、配管が密集するシステムバスなど施工場所による偏差や、風が当たる向きなどのパラメータが見えなくなるので頼りすぎるのもどうかと思うのですが、とにかく住宅の気密性能の総合成績としてわかりやすいので使われているのだろうと思います。

「鉄骨系の躯体だとC値は2.0を切るのはかなりきつい」とか、「うちはC値0.5以下にこだわってます」、といったような言い方をされますね。

では引き違い窓1つの有無で、C値がどの程度悪化するのでしょうか。

  • JIS A 2201の数式を使う方法

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JIS A 2201 気密性能測定

室内気温を20℃とすると、隙間面積の絶対値は

αA = 2.0*3.43*0.627*sqrt(353/293)≃4.69 ㎠

延床100㎡のお家に、横幅1690mm×高さ2030mmの引き違い窓を1つ作ると、C値が0.0469悪化します。

 

  • ELAを使う方法

他に、竹中工務店の人が出している論文で、ELA(Effective Leakage Area; 有効漏れ面積)というファクターで漏気量を隙間面積に換算しているものがありました。

www.jstage.jst.go.jp

これも使ってみましょう。

ELA = 2.0/3780/(10^0.65)≃4.05 ㎠

延床100㎡のお家に、横幅1690mm×高さ2030mmの引き違い窓を1つ作ると、C値が0.0405悪化します。まぁまぁ整合してますね。

 

結論

高気密住宅を検討されている建て主の方、この数値を見てどう思われましたでしょうか。

実際には窓を削除するのではなく他のタイプの窓に変更するのでしょうから、上記のC値をフルに稼げるわけではありません。それでも、もし家のすべての窓が引き違いで計画されている場合、他のタイプの窓に変更することで、C値は0.2とか0.3くらいは簡単に下がりそうですね。

とはいえ実用性との兼ね合いを検討した上で、リビングの掃き出し等にピンポイントで使うのであれば、さほど大勢に影響はない感じがします。

が、景色を楽しむための大窓を計画している場合、視界が開けているということは風も多く当たるでしょうから、C値に惑わされずに、自分にとってよりベターな窓を検討する価値はあるんじゃないかと思います。

(C値はあくまでスタティックな計画換気に関する指標であって、いわゆるダイナミックな隙間風を防ぐための指標ではないからです)

世界の論文を探すと、すべり出し窓やドレーキップ窓など、色々なタイプの窓の漏気を計測しているデータが出てきます。読み進めて何か解ったら、また報告しようと思います。