家づくりラプソディー

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延床23坪の注文住宅を建てた経緯や暮らしの紹介。理屈っぽい話題多めです

床下エアコンをOMソーラーの文脈から考察する

床下エアコンという空調システムについて説明した記事です。

書きすぎた。記事を分けるべきだったか。

いきなり最初にまとめ

床下エアコンはエアコンを使った床暖房システムです。近年、高性能(な温熱環境)を売りにする工務店設計事務所による採用事例が増えています。

日経ホームビルダーとか建築知識ビルダーズといった住宅建築の専門誌でもたびたび取り扱われており、業界的に流行りつつあるシステムだと言えるでしょう。

私個人の見解としては、だいたい

  • 低層(2階建て+せいぜいロフト)、かつ建坪(ワンフロア)15坪未満くらいのコンパクトな住宅
  • 無垢の床が好き
  • 過度な期待はしない
  • HEAT20 G2程度以上の外皮性能が確保されている
  • メンテナンス性に配慮されている
  • ノウハウを持った(過去の失敗事例も知っている)工務店が設計・施工する

という条件に合致すれば、床下エアコンの採用を検討してみてはどうかなと思います。

逆に言うと、上4つの全てに該当する建て主であれば、残りの下3つを満たす建築会社探しをしてみてもいいんじゃないかなと思います。

床下エアコンというシステムをどう捉えるか、そしてどう評価するかは、初期コスト、建材や工法との相性、求める効果の大きさ等々、色々な見方によって変わると思います。これらを考慮した上で、個人的には上記の見解に至りました。

床下エアコンとは

床下エアコンとは、床下(1階の床と基礎の間)にエアコンで暖気を吹き込むことで、1階全域で床暖房を実現する空調計画の事です。
さらに、暖気は上昇するという物理特性を利用して、階段や吹き抜けなどの階間開口部を利用して2階にも暖気を送ることで、簡易的な全館空調をも実現しようとするものが多いです。

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床下エアコンの概略図

大手ハウスメーカーが採用するような、全室にダクトを張り巡らせる大々的な全館空調システム(桧家住宅のZ空調、パナホームのエアロハス等)とは対照的に、わりと小技的なシステムかなと思いますね。
その特性から、やはり小技的な提案に長ける地場の工務店さんの間で徐々に広がりつつあるように思います。また、各地の空調系の開発会社が、地場の工務店向けに技術提供を売り込んでいるパターンも増えているようです。

床下エアコンはOMソーラーの精神的後継?

ところで、OMソーラーという空調換気システムがあります。


環境工学系の住宅建築家」の走りともいえる奥村昭雄さんが考案した空調システムを、全国の工務店に提供(IT業界風に言えばIPフランチャイズ)している商品で、1987年から商品展開されているようです。

ここでは冬の暖房についてのみ解説しますが、OMソーラーのしくみをざっくり流れで説明すると

①屋根の端から外の冷気を吸い込んで、屋根に置かれた箱にその冷気を入れる

②日射で箱が暖まり、中の空気も温度が上がって暖気となる

③その暖気を、専用のダクトとファンで床下に送る

④送り込まれた暖気を床下にめぐらせて床暖房状態にする

⑤床にあけたスリット(ガラリ)から室内に暖気を抜く

という仕組みです。

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OMソーラーの概略図

 

当時は住宅の外皮性能が低く、
「隙間風はツーツー、家は夏をもって旨とすべし、断熱?なにそれ?」
というものこそが日本住宅だとされていた時代。

「エアコンをつけるとフル回転で吹きっぱなしで気分が悪く、電気代も2万3万は当たり前。やっぱりストーブやこたつが正義だな」と多くの人が考えていました。

そこで、「エアコンやストーブなどのエネルギーを消費する暖房器具を使わずに、どれだけ太陽の力を活用して家を暖められるか」という研究を進めたのが奥村さんであり、その実装例の1つがOMソーラーである、と自分は理解しています。

で、このシステムを成立させるには、弱い暖房でも効率よく室内を暖められる必要があります。

つまり、建物の外皮性能(断熱・気密性能)の高さが前提になっています。

 

しかし、OMソーラーの有無によらず、こうした外皮性能の高さが暮らしの快適性に大きく寄与することは、今や良く知られた事実。

現在は住宅も高性能化が進む時代。安い建売でもペアガラスが当然になり、壁や屋根にもそれなりに断熱材が入っています。性能重視系の注文住宅では言うまでもありません。すると、昔ほどゴリゴリにエアコンを効かせる必要がなくなってきます。

そうなるとOMソーラーの優位性が揺らいできて、以下のような短所が指摘されます。

  • 天気の悪い日こそ室内を暖めたいのに、日射不足で暖房効果が低い
  • 暖かい空気を屋根から床下まで吹き降ろすという物理法則に逆らう発想
  • メンテナンスはOMソーラーのライセンスを受けている工務店しかできない

つまり、OMソーラーが我々にもたらしたものは何かというと、省エネルギーで空調を行うためには建物の外皮性能(断熱・気密性能)やエアフロー計画こそが重要である、という意識の転換こそがメインであって、集熱システムそのものは若干色物的な存在感に留まっているのかもしれません。(ってOMは既に終わったわけではなくて、開発を続けて様々な改良システムを提案してますが)

 

で、そこに降って沸いてくるのが床下エアコンです。

 

OMソーラーの仕組みを踏まえた上で床下エアコンを捉えると、

④送り込まれた暖気を床下にめぐらせて床暖房状態にする
⑤暖気を床下に送り込んで床暖房し、居室に抜く

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OMソーラーの概略図


というOMソーラーの最後の2ステップだけを採用した上で、熱源をエアコンに置き換えたもの

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床下エアコンの概略図

だと言う事ができると思います。


すると、効率の良い暖房計画はそのままに、上記3つのOMソーラーの欠点をいずれも解消できることになるのです。

*1
*2

というわけで、床下エアコンはOMソーラーの派生バージョン、後継バージョン、または簡易版、であると考えることができるように思います。

なぜここでOMを引き合いに出しているかというと、床下エアコンを採用する合理性がある住宅は、OMソーラーについてもまた然り、合理性があると考えられるからです。

床下エアコンの適不適

床下エアコンは、あらゆる人にとって適した空調システムであるとは言えないと思います。

コスト的には安く済む場合が多いようですが、その効果を発揮させるためには、空調以外にも家づくり全体における配慮が必要になると考えられます。

大手ハウスメーカーが採用しない理由もおそらくこの点にあります。ハウスメーカーは最大公約数的な顧客満足度を狙っているというか、「問題が出ないという事が、最も良い事だ」という立場で、商品開発や家づくり、アフターサービスをしていると思います。したがって、間取りや床材との組み合わせで効果が変わったりする不安定な空調は導入したがらないでしょう。

とはいえ、自分が近隣で探して回った限りでは、床下エアコンを提案している工務店は、床下エアコンを使うかどうかに関わらず、既にそれに適した家づくりをしているところが多いと感じました。したがってそういう工務店に依頼をする時点であまり心配する必要はないかと思いますが、建て主が自主的に採用を希望する場合、こうした条件を満たすように工務店が取り組んでくれるかどうか、確認しながら進めたほうが良いと思います。

床下エアコンが向いている条件

低層かつコンパクトな住宅である

床下の暖気を3階までフルに巡らせようとするとかなりきついものがあると思います。地下室も無理です。また、建坪が大きいと、エアコン1台で家一軒を暖めきれるかどうかという問題が出てくるので、概して小さい家との相性が良いと言えるでしょう。

無垢の床が好き

高断熱系の工務店の人がよく情報発信しているのは、「(ガス式や電気式の)床暖房が使えるフローリングは冷たいから、床暖房が必要になってしまう」というループめいた理屈です。すなわち、無垢の床を採用すればそもそも床暖房の必要性が下がるという主張です。

事実、冬場に床が冷たい理由は、プレスで薄く固められた合板や表面のコーティングにも原因があります。一方、無垢板、特に杉や松といった針葉樹は、柔らかく高温に弱いため床暖房との相性が悪いですが、当たりの冷たさ(熱抵抗)は畳に近いです。

無垢の床を採用することに抵抗がなければ、床下エアコンで「ほどほどな床暖房」をプラスするのはちょうどいいオプションだと思います。

過度な期待はしない

床下エアコンは、屋内全域をめぐる空気の流れに暖房を乗せるという幾分ファジィな空調です。

コストをかけてコンピュータでシミュレーションをしてくれる会社もあるようですが、室内戸の開け閉め、換気扇のオンオフだけであっさり計算が狂います。

また、床暖房のようにチョコレートが溶けるレベルの暖かさは得られないですし、冷え切った部屋を手っ取り早く暖めることもできません。もちろん設定温度は部屋別に変更できません。

また、冷たい空気は床下に溜まってしまいますので、冷房は別途計画する必要があります。

…等々を考慮すると、床下エアコンは良く言えばセントラルヒーティング的な縁の下の力持ち役とも言えますが、逆に、暮らしの豊かさにちょっとワンポイント加えるオマケみたいなもの、という捉え方もできるでしょう。

HEAT20 G2程度以上の外皮性能が確保されている

1台のエアコンでどこまで広い空間を暖められるかは、家がどのくらい外気で冷めるのかと密接な関係があります。

ちょっと詳しい定義の説明は省きますが、例えばHEAT 20の地域区分における5地域以降で外皮性能がUA値0.46以下ならば、数値上は14畳用のエアコンで60畳程度の暖房をまかなう余裕があるようです。

メンテナンス性が考慮されている

聞いたこともない専用のエアコンユニットだったり、非常に複雑な取り付け方がされていたりすると、壊れた時に苦労すると思います。エアコンってせいぜい10年くらいで壊れますからね。

普通の家電量販店で買えるエアコンを、普通の取り付け業者が施工できるように取り付けられているものが望ましいと思います。

ノウハウを持った(過去の失敗事例も知っている)工務店が設計・施工する

最後になりますが、これはかなり重要だと思います。

例えば、床下エアコンは床下を室内空間として使うために基礎断熱が前提になります。

基礎断熱自体は今となっては特段珍しいものでもないですが、普及し始めた当初はシロアリの食害が続出し、前述のOMソーラーを施工した建設会社もシロアリ関連でずいぶんと裁判沙汰があったようです。

基礎断熱の施工に慣れている会社であれば、そういった過去の事例もフィードバック済みなのでしょうが、逆にそれまで基礎断熱方式を採用していなかった会社が「床下エアコンに興味あったからやってみる」などといって手を出すといったパターンでは泣きを見るかもしれません。

床下エアコンや基礎断熱に限らず、あまり消費者サイドまで情報が伝わってこないマニアックなノウハウのようなものは、様々な施工方法において存在するのが当然でしょう。慣れないことはさせるもんじゃないと思います。

*1:もちろん、床下エアコンはエアコンを動かしますので、OMソーラーと違ってエアコンのための電力を消費します。ただしOMソーラーもエアコン要らずという人は聞かないので、結局のところOMソーラーの導入維持費とエアコン電気代のどちらが得か、みたいな話になってきます。

*2:コストが高くなってもCO2排出を抑えたい(エコノミーよりエコロジーを優先する)、といった思想の人には良いかもしれませんが、そのコスト増加分で建物の性能を上げた方が結局はCO2排出を削減できるかもしれない、みたいな微妙なバランスの領域にもなってくる気がしますし。OMソーラーを入れるお金があれば、例えばペアガラス複合サッシの窓をすべてトリプルガラス樹脂サッシにしても余裕でお釣りが来ます。しかも電気機械的な部材は全く増えずランニングコストも0です