家づくりラプソディー

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延床23坪の注文住宅を建てた経緯や暮らしの紹介。理屈っぽい話題多めです

ドイツ窓「ドレーキップ」のリアル

「ドレーキップ窓」(ツーアクション窓)という種類の窓の美観的側面について、やや深く検討した記事です。

ドレーキップ窓とは

ドレーキップ(Dreh-Kipp)とよばれる窓があります。
 

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 ドイツ語でDrehen(回転) Kippen(倒し)。内開きと内倒しの2通りの開き方ができる窓です。
 
 YKK APでは「ツーアクション窓」としてラインナップされています。
 そもそも日本で見かける回転開きの窓はほぼすべて外開きですから、内開きや内倒しのどちらかだけでも十分珍しいのに、両方搭載してるもんだから二重に珍しい。
 
 ドイツでは非常に一般的なタイプの窓と言われています。どこかにドイツの家が映ってる映像はないかな~と思い、好きな映画「帰ってきたヒトラー」を見返してみると、たしかにありました。

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 工務店のモデルハウスを訪問した時に、妻が木製のドレーキップ窓に一目惚れ。木製サッシの意匠性が素晴らしいことも勿論ですが、なによりその機構に夫婦で驚いたものです。
 

ドレーキップ窓の特徴

 ドレーキップ窓は、普通の引き違い窓やすべり出し窓に比べると、ざっくり以下のような特徴があります。
 
長所:
  • 開閉する窓としてトップクラスに気密性が高く、隙間風が少ない(窓の4辺すべてに気密パッキンがめぐらされており、レバーをひねるだけで窓枠の3辺~4辺にある金具でサッシに引き付けられてロックするためです)
  • 換気のために開けっぱなしにしても、ある程度防犯性が確保できる
  • 室外側の窓ガラスを室内から拭ける。サッシも全周にわたって室内から掃除できる
短所:
  • 窓のフレーム見付け(ガラスじゃない枠の部分)が太いため、サッシのサイズのわりにガラス面積が小さい
  • 機構が複雑なため高価である
  • カーテンやロールスクリーンといった窓周りのインテリアと干渉しやすい
 
 前述のとおりドイツでは非常に一般的なようです。日本では過去にビルでの採用事例がたびたびあったようですが、住宅用としてはよほどのマニアしか使わない超エンスー向けな存在だったみたいです。ホテルで「窓を開けようとしたら開け方がよくわからないので、とりあえず閉めっぱなしにしておいた」という経験がある方、それはおそらくドレーキップです。
 2020年のコロナウィルス禍で換気の徹底が叫ばれ始め、過去に建築されたビルのドレーキップ窓が突然その真価を発揮しています。都心の中規模ビル街を見上げると、それなりにお金がかかってそうな少し古めのビルでは、内側に傾いて換気モードになった窓が意外とたくさん目につきます。
 
 しかし、ここ数年で、YKK APLIXILが高性能な樹脂サッシ製品にこのドレーキップをラインナップし始め、徐々に入手性が良くなってきたとみられます。
 特にYKK APは、俳優の福士蒼汰さんを起用し、この窓の説明をするだけのCMまで打ったという力の入れようです。

ドレーキップなら開いて魅せたい

 さて、ドレーキップ窓の採用を検討する場合、内倒しモード・内開きモードで窓がどのくらい開くのかが気になってきます。

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(平行投影と透視投影もごっちゃにしてるクソ下手ポンチ絵ですまん…)

この開きの寸法。色々と調べてみると、日本の大手メーカーのドレーキップ窓は、本場ヨーロッパのそれと比較すると、想定したような見え方にならない場合があることがわかりました。その理由は、サッシの取り付け方の違いにあります。
 察しのいい人は、上に挙げた2つの動画を見た時点で気がついたかもしれません。
 
「ドレーキップいいよぉ~ドイツでは標準だよぉ~」
というアゲアゲ記事もよく見かけますが、この点についての言及は、本記事の投稿時点では、木製サッシメーカーの株式会社 日本の窓Facebookの投稿でちらっと触れていた程度しか見つけられませんでした。
 
というわけで、その要注意な点について説明してみようと思います。
 

サッシの外付けと内付け

 サッシ(窓枠)の取り付け方には、大きく2通りがあります。
(私は建築の専門家ではなく、このブログも専門家に向けて書いているものではないので、必ずしも完全に正確な説明ではないことをご了承下さい。イメージですイメージ。)
 

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外付け
 壁の開口部に、室外側からサッシをはめ込む。
 外壁から見ると窓枠が飛び出し、内壁から見ると開口部がえぐれた形で納まる。
 窓に雨がかかりやすい一方で、サッシの外枠を伝って雨が流れ落ちるので水は溜まりにくい。 
 現在の日本の木造住宅ではこちらがメイン。
(正確には、外壁からの飛び出しを控えめにして、ガラス面が外壁よりも内側に納まる「半外付け」というタイプがメジャーなのですが、ここでは取り付け方による分類をしているので、外付けの一種だと考えることにします)
 
内付け
 壁の開口部に、室内側からサッシをはめ込む。
 外壁から見ると開口部がえぐれており、内壁から見ると窓枠が飛び出した形で納まる。
 外壁をつたって垂れてきた雨が窓枠に干渉しないため雨がかかりづらいが、強い雨の後はえぐれた部分に水が残りやすい。
 雨の少ないヨーロッパの住宅ではこちらがメイン。日本でもRCではこちらがメインなのかな?
 
 普通の引き違い窓であれば、窓の開閉機能には外付け・内付けによる違いは出ないのですが、回転系の窓になると話が変わってきます。
 

窓の納まり方によるドレーキップの見え方の違い

 話題のドレーキップ窓で内倒しモードにした時、それぞれどんな感じで見えるかを図解したものが以下です。
 
 

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 そう、外付け納まりのドレーキップは、壁の厚みのぶん開口部が入り組んでしまうのに対し、欧州風の内付け納まりのドレーキップは、内倒しモードでもわりと大きめに通気ルートが作れるんですよね。
 
外付けのドレーキップ

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APW 430 ツーアクション窓
内付けのドレーキップ

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MADOBA - 株式会社 日本の窓
 
 内開きモードも、外付け納まりは壁が邪魔になるので物理的に90°までしか開けないのに対し、内付け納まりなら90°以上開く製品があります。

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APW 430 ツーアクション窓

 

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MADOBA - 株式会社 日本の窓

APWのこの開け方は、90°で止まることを絶妙にごまかしてるとも解釈できますね(笑)

 
 特に内倒しモードでは、壁の厚さを大きくとる場合、光がほとんど漏れない程度の開口しか確保することができず、イマイチかっこ悪くなる可能性があります。

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 こんな感じで納まっちゃうとコレジャナイ感が出ますよね。サイドからチラっと外が見えるのがかっこええのにー(笑)
 
 ここで、大手の中ではわりとダサい(デザインにあまりこだわってない)サッシメーカーとして有名な、エクセルシャノンのカタログの写真をご覧ください。 

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シャノンウィンド ドレーキップ窓

 はい、窓が出てきてません(笑)

 というか他メーカーのように、壁から窓が飛び出ているところを引きで斜めから撮影するという美的感覚がそもそも存在しないようです。

 (ロールスクリーンの取り付け金具だけ映り込んでたり、景色が白飛びしていたりと、写真1枚から全体的にセンスのなさがにじみ出ており、そこで勝負してるメーカーじゃない感じが伝わってくるのでむしろ好感が持てます)

 一応フォローしておくと、エクセルシャノンはその性能から寒冷な地域でのシェアが高いですので、それを意識して壁の厚みもたっぷりあるテスト施設か何かで撮影されたものなのでしょう。つまり見栄えを盛っていない、正直な高性能住宅の写真なのだと思います。

 ともあれ。 

 シャノンに限らず、4寸角以上の柱、2x6工法、断熱材マシマシ、特製の窓枠、等々で外壁やサッシ取り付け部が厚くなりそうなお家の場合、想定した美観が得られるかどうかを良く確認したほうが良いと思います。
 ただ、この納まりはカーテンやロールスクリーンと干渉しづらいという長所があるので、実用性に目を向ければ一概に悪いというわけでもないでしょうね。
 なお、もちろん空気の通り道は確保されているので換気性能はそれなりに問題なく得られるはずです。ちょっとだけ換気したいという場合はあまり開く必要もありませんしね。この記事で話題にしているのはあくまでも「かっこいいドレーキップの開き方」についてです。
 
 また、窓の計画にもよりますが、ドレーキップ窓を連窓でセットアップすれば、壁ではなく隣の窓面を基準にしてドレーキップ窓が浮き上がっているように見えるので、この問題を緩和することができるでしょう。

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APW 430 ツーアクション窓。FIX窓との連窓モデル
 ただし連窓はサイズの選択肢が限定されていたり、LIXILのようにそもそも対応していない場合があるので、併せて注意が必要だと思います。
 

主要3メーカーのドレーキップを比較

 わざわざ表にまとめてみました(笑)
赤が他メーカよりも優れている部分青が他メーカーよりも劣っている部分です。
 

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 バランス的にはAPWがうまくまとまっているように思えますね。

 特に柱の外側から測って217mmという余裕のある内倒し幅は、ドレーキップの見栄えに期待している人にとっては魅力的。

 ただし、小窓にすると壁から窓が出てこない危険性がいきなりアップするのでご注意を。

 また、エルスターの内開きは71°という中途半端さなので、内開きを多用するつもりの人は要注意です。これはおそらく、隠し丁番というデザイン上の優位点とのトレードオフです。

 他に定量化できないポイントとして、ハンドルのかっこよさはAPW > シャノン > エルスター の順だと思いました。エルスターのドレーキップは、ハンドルの回転動作を金具の上下の動きに変換するカムのような機構が、窓ではなくハンドル側の付け根に埋め込まれているようで、せっかくのフレームのスリムさと引き換えにゴツいハンドル取り付け部分となっているように感じます。

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エルスター ドレーキップ窓 施工マニュアルより抜粋

 

 家づくりで窓を選ぶシチュエーションにおいて、販路、搬入、施工などの都合から、家一軒の中で窓メーカーを統一したいという意識が働く場合が多いようです。ただ、ワンポイントの限定的な採用であれば、別メーカーを入れることも許容される場合があろうと思いますので、ご参考までに。
 

まとめ

 ここまでに説明した、言うなれば「ドレーキップ、窓枠の中に埋もれるんちゃうか問題」。これを根本的に解消するには、内付けタイプのサッシを選択することです。

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MADOBA - 株式会社 日本の窓
  これによりドレーキップ窓が最大のパフォーマンスを発揮し、美観的にも申しぶんないドヤァ感が出ることでしょう。ただし、日本で木造住居向けの内付サッシを販売しているのは、一部の木製サッシメーカー等、極めて限定的です。諸々の観点から、相応の覚悟と出費が必要となることは確実でしょう。

補足

 ところで、ドレーキップのハンドル操作は国際的にも「ロック→内開き内倒し」という切り替わり方をするものが一般的なようですが、APWだけは「ロック→内倒し内開き」という順番になっている点が非常に興味深いです。
 普段使いの換気は内倒しで行ってこそでしょうから、ロック状態からワンアクションで内倒しに移行できるのは理に適っていると思います。三協アルミもビル用でラインナップしているようですがAPWと同じ順序になっており、わざわざこの順序にならって「キップドレー」と呼んでいますね。