家づくりラプソディー

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延床23坪の注文住宅を建てた経緯や暮らしの紹介。理屈っぽい話題多めです

断熱と温度ムラは別問題?

室内温度のムラや、最適な温度環境について考えた途中の記事です。

「断熱」の目指しうるところ

きわめてざっくりした説明になりますが、建物の外皮性能(断熱性、気密性など)を上げると、室内環境が外気の温度変化の影響を受けづらくなります。より具体的には、仮に日射の取り込みがない場合、室内温度はその地域における特定の時間的スパンにおける平均気温に近づきます。
家の断熱性を上げると、例えばまず室内気温が外気の6時間平均に近づき、さらに上げると1日平均、1カ月平均。最終的には年間平均気温に近づきます。
短期的には真夏の正午の灼熱が抑制され、真冬の深夜の冷え込みが抑制される。長期的には夏と冬の違いがなくなってくる
 
「夏は暑く、冬は寒い」という命題に異を唱えない限りにおいては、いずれの時間軸で考えても、断熱によってもたらされる温熱環境は「夏はより涼しく、冬はより暖かい」という評価に繋がる可能性が高くなるわけですね。
 
ちなみに、例えば、私の住所の近隣で気象庁の観測データが揃っている東京都府中市を見てみますと、ここ数年の年間平均気温はだいたい16℃です。
 
まぁ、夏にしても冬にしても16℃の室内というのは寒いと思いますが、土壌温度はその地域の年間平均気温に近いらしく、ちょうど地下室が年中このくらいの気温になるそうです。
 

断熱以外の要素が+αの快適性を生み、一方で温度むらを生む

とはいうものの、普通の地上の一戸建てに地下室並の究極のハードコア断熱を施すのは現実的ではないですし、むしろ開口部からの日射の取り込み等によって室内温度が上がります。また、生活する上で必要な換気や、人の活動に伴う発熱・排熱もパラメータとして加わるわけで、そのあたり諸々踏まえた上で「夏に28℃以下」とか、「冬に20℃以上」といったあんばいの線引きになっていることが多いと思います。
 
さて、こうした室内気温にかかわる断熱以外の要素は、間取りや建物形状、窓の仕様や方角など、家の計画や周辺環境によって大きく変動します。
例えば、
・北の部屋は日当たりが悪くて南の部屋より寒い(日当たりという要素)
キッチンは料理をするのですぐ暑くなる(調理の熱源という要素)
・部屋の真ん中より、窓の近くのほうが寒い(窓の配置という要素)
といったものは簡単に想像できるでしょう。室内の温度ムラというやつです。
 
この温度ムラを極力無くして、室内の温熱環境を均質化する、というのが設計者の中でよく取り組まれているテーマのようです。断熱を強化したうえで日射や暖房の熱を上手に分配することによって、例えば「冬の室内環境を、全部屋で終日20℃以上に保つ」といったふうな計画が可能になるわけです。
 
そうした「冬の全部屋の室温が〇℃以上」というアピールポイントは、外皮性能や間取り、空調計画といった種々の設計要素が、「温熱環境」という日々の暮らしに直結する形で(ある程度)定量的に結実しているわけですので、そうした温熱設計に見識のある実務者からすれば渾身のパンチラインであり、評価すべきところだという事に疑いはありません。

HEAT20ってよく考えるとちょっと変?

HEAT20の外皮性能グレードも、実は温度ムラの改善に主眼を置いて設定されている指標です。
窓の配置や空調計画等はいくつかのモデルケースを想定した上で、外皮性能だけを変えることによって
「居室で暖房を効かせる暮らし方をした場合、秋冬の5か月間(3480時間)で、延床面積の何%が何時間、15℃以下になるか?
といった感じの基準で決められた指標です。温度ムラの改善、特に冬の寒さの改善に主眼が置かれていることがよくわかると思います。(もちろんその際の暖房エネルギー削減量も重要です)
 
しかしながら、先ほど書いたように温度ムラは外皮性能以外の要素で発生するものですので、温度ムラの削減を外皮性能グレードで表現しようとしているのは何となく変に感じるというか、改めて整理してみると本質的には若干距離があるんじゃないかという印象を持ってしまいました。
HEAT20はあくまで間取り・建物形状・窓の配置といった建物のプランニングについては旧来のテンプレ的住宅を前提としており、そのテンプレ住宅の範囲内で外皮性能を変更したときにどのように温熱環境が改善するかを示したものだ、という言い方もできるでしょう。または、15℃を下回っているレベルでは断熱が足りなくて、「16℃でも寒い、ムラがある」と皆が言えるほどになれば、その時点でHEAT20の活動目的は達成されたという考え方なのかもしれません。
 
ともあれ、逆説すると、外皮性能以外の工夫で温熱環境の改善が図られていれば、たとえ外皮性能がG1、G2、G3といったグレードを充足していなくても、それぞれのグレードが示す温熱環境が実現できる可能性はあるということです。
ただし省エネについてはちょっと難しそうですね。暖かくなっている部屋の温度は保つ(下げない)という前提では、温度ムラが無くなるということは、冬の内外温度差がもれなくどこでも大きくなるということです。熱損失は温度差に比例して生じますので、必要な暖房エネルギーは大きくなります。これを防ぐには外皮性能を上げるしかないと思います。

冬に23℃は本当に快適なのか?

室内気温が揃っているのは、昔の無断熱住宅に比べれば圧倒的にマトモな環境ですし、温熱環境にこだわっていない住宅と比べれば、大幅な付加価値を感じられると思います。
しかし、例えば「真冬に常に23℃の家」を「いつでも寒くない家」と判定してよいか、期待してよいかについてはちょっとした落とし穴があると思います。と同時に、家を建てたり買ったりする前から、住み手が自分で想像力を働かせたり実測するなどで検討できる事でもあるので、あまり他人の印象をアテにするところではないと思いました。
次回の記事で具体例を挙げたいと思います。